オジロワシの背後に浮かぶ国後島(写真:rockptarmigan/イメージマート)
(安木 新一郎:函館大学教授)
ハンガリーのオルバン政権は「親ロシア」だと言われることが多い。
オルバン・ビクトル首相は、ロシアや中国などのような非民主主義的な権威主義体制を志向すると同時に、トランプ大統領とも親しい関係にある。また、EU(欧州連合)の官僚主義、独善的な価値観の押し付けを批判しており、最近はロシアの主張に同調し、ウクライナは主権国家ではないと発言して物議をかもした。
とはいえ、ハンガリーは「親ロシア」というより、むしろ「反ウクライナ」であると言ったほうが正しい。
ウクライナ西部のザカルパチャ州には15万人弱のマジャル人が住んでいる。マジャル人はハンガリーの主要民族で、1000年以上前からザカルパチャにはマジャル人が住んでいるが、ザカルパチャは第2次世界大戦の結果、ソ連によって併合され、ウクライナ領になった。
オルバン政権は、ザカルパチャのマジャル人にハンガリー国籍を付与し、多くの援助をしてきた。失地回復を目指すハンガリーに対し、ウクライナは自国領を明け渡すつもりなどなく、両国の対立が続く中、今回のウクライナ戦争が起きたのだ。
日本もソ連によって千島・樺太を不法占拠されており、いまだロシア領だとは認めていない。ただ、樺太ですら日系人はわずか数百人しかいない。これに対してウクライナには万単位でマジャル人が今も住んでいる。オルバン政権を「親ロシア」だと非難するのは簡単だが、ハンガリーにとってウクライナは明確に敵で、ロシアは「敵の敵」である。