トランプ大統領はなぜ今、核実験の再開を言い出したのか(写真:AP/アフロ)
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米国のトランプ大統領が核実験の再開を指示した、というニュースが世界に衝撃を与えています。本当に実施するとなれば、米国としては1992年以来のことです。他の核保有国が強く警戒することは間違いなく、かつてのような核軍拡競争に発展する可能性も否定できません。トランプ氏は何を考えているのでしょうか。その背景をやさしく解説します。

西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス

なぜ、急に「核実験再開」を指示したのか

「他の国が核実験を行っているのだから、私も戦争省(国防総省)に核兵器の実験を開始するよう指示した。これはただちにスタートする」

 トランプ氏は10月30日、自身のSNSにそう書き込みました。韓国・慶州で中国の習近平国家主席と会談する直前に投稿したものです。翌日のテレビ番組では、ロシア、中国、北朝鮮を名指しして、「かれらは地下核実験を行っている」と非難しました。

 米国をはじめ世界各国のメディアがこのメッセージを報道し、大きな波紋が広がりました。ロシアや中国は「核実験は行っていない」と反論し、トランプ氏の発言を批判しています。

 実はトランプ氏のSNS投稿に対しては、いくつかの事実誤認が指摘されています。投稿の前日、ロシアのプーチン大統領は核弾頭を搭載できる新型原子力魚雷「ポセイドン」と、同じく原子力推進式の巡航ミサイル「ブレベスニク」の実験に成功したと発表しました。トランプ氏はこれを核実験と取り違えた可能性があるのです。

世界の核弾頭数(図:フロントラインプレス作成)

 また、トランプ氏は核実験の再開を「戦争省に指示した」と投稿しましたが、核実験を実施するのはエネルギー省の担当です。エネルギー長官のライト氏は「米国は爆発を伴う核実験を行う予定はなく、核関連の部品やシステムが正常に作動するか試しているに過ぎない」と述べており、トランプ氏の発言とは食い違いがあります。

 さらに、トランプ氏は投稿で、米国はどの国よりも核兵器を多く保有していると主張しましたが、実戦配備と貯蔵されているものを合わせた核弾頭数ではロシアの方が上位です。

 米国では米大統領に核攻撃を命令する権限が与えられています。大統領が外国へ行く場合でも、随行者が核兵器使用に必要な暗号が示された書類の入ったスーツケースを持参し、いつでも対応できるような体制を整えています。

 それほどの重要人物が、あいまいな情報認識に基づいて、核兵器に関する政策を突然転換してしまう。そんな現実に背筋が寒くなる思いを抱く人も多いでしょう。