核実験禁止に向けた取り組みで回数は大幅に減ったが
第2次世界大戦後の東西冷戦に伴って、米国とソ連の超大国をはじめとして核兵器を保有する国々の軍拡競争が展開されました。敵対する相手に対して耐え難い被害を与える報復能力を持つことで、相手に攻撃を思いとどまらせるという「相互確証破壊」(MAD: Mutually Assured Destruction)の概念が米ソ双方で安全保障政策として存在していたのです。
核実験は新しい核兵器を開発する際、その爆発力などの性能を確認するために必要となるプロセスです。広島・長崎への原子爆弾投下の前に行われた実験は、米ニューメキシコ州の砂漠で行われ、残存放射線による環境への影響が問題となりました。1954年、太平洋のマーシャル諸島ビキニ環礁で実施された水爆実験では、日本のマグロ漁船第5福竜丸などが放射性物質に汚染され、乗組員が被爆しました。
1963年の部分的核実験禁止条約(PTBT: the Partial Test Ban Treaty)によって、大気圏内や宇宙空間、水中での核実験が禁止されると、核保有国は規制の対象外となった地下で核実験を実施するようになります。それらを含め、1991年のソ連崩壊で冷戦が終結するまで、地球上での核実験は2000回を超えた、と言われています。
冷戦後、核実験の数は大幅に減りました。米国は1992年以降、核爆発を伴う実験を実施していません。1996年には包括的核実験禁止条約(CTBT: the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)が国連で採択されました。しかし、米国や中国などは批准せず、ロシアは一度批准したのちに撤回。条約の発効には特定の要件を満たす44カ国の批准が必要ですが、そのうち未批准や未署名が9カ国を数え、いまだに発効していません。
米国では、CTBT対象外の核爆発を伴わない「臨界前核実験」は続いており、核兵器の近代化は着実に進んできました。最近ではバイデン政権が2024年5月に実施を発表しています。一方、トランプ氏が実施を指示したという核実験が核爆発を伴うものなのか、未臨界核実験なのかは明確ではなく、同氏は「今にわかる」と思わせぶりな態度を続けています。
こうした数々の核実験を経て、世界の核保有国は現在、9カ国とされています。ロシア、米国、中国、英国、フランス、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮です。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI: Stockholm International Peace Research Institute)の調べでは、世界にある使用可能な核弾頭の数は9614発。このうちロシアと米国が8割以上を占めています。さらに、中国も保有数を急速に伸ばしています。