早ければ2029年にデジタルユーロを発行すると発表したECB(写真:PantherMedia/イメージマート)
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(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 欧州連合(EU)の欧州中央銀行(ECB)は10月30日、早ければ2029年にもデジタルユーロを発行すると発表した。これは中央銀行デジタル通貨(CBDC)に属するもので、民間業者が発行するステーブルコイン(法定通貨との固定レートでの交換を保証する暗号資産)とは異なる。主要中銀でCBDCを発行するケースはこれが初めてだ。

 しかし、予定は未定である。実際にECBがデジタルユーロを発行するまでには、さまざまな議論を経たうえで、立法府である欧州議会の決議などを経なければならない。順調にいった場合に限り、2027年中頃に実証実験を開始し、2029年に本格的な流通を目指すというタイムスケジュールである。議論が難航すれば、計画はもちろん後ズレする。

 それに、このプロジェクトをリードしてきたECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は、2027年10月で任期を終える。後任の総裁が誰になるかは定かでないが、新総裁の下でECBがデジタルユーロの発行を再考する展開も考えられる。ECBがデジタルユーロを本当に今回のスケジュール感で発行できるかは、神のみぞ知る領域である。

 いずれにせよ、ECBによるデジタルユーロの発行は、金融政策運営への影響を見極めながら段階的に行われる。特に重要なのは、金融政策の波及経路が弱まらないようにすることだ。

 中銀による金融政策の効果は市中銀を通じて家計や企業に波及する。中銀が利上げをすれば、市中銀も金利を引き上げるため、経済活動にブレーキがかかる。利下げの場合はその逆となるわけだが、CBDCの発行によって、この経路が弱まる危険性がかねてより指摘されている。

 家計や企業が、多額の預金を銀行口座からCBDCの口座にシフトさせる可能性があるためだ。こうしたリスクを抑制すべく、ECBはデジタルユーロの発行に際してさまざまな規制を設ける方針をかねてから表明している。

 特にポイントとなるのが、個人が保有できるデジタルユーロの金額に上限を設けることだ。