なぜ企業・団体献金は問題視されるのか?政治の歪みと金権構造
企業や労働組合などの団体からの政治献金は、なぜ制限を設けるべきなのでしょうか。最大の懸念は、特定の企業・業界・団体による献金が、政治の意思決定を歪めてしまうのではないかという点にあります。
金権政治が大きな問題となっていた1970年代、日本では大気汚染や水質汚濁などの公害が大きな社会問題となっていました。ところが、政府と与党自民党による公害企業への対策が遅れるなか、公害企業から自民党に巨額の献金が行われていたことが発覚(1970年)。また、第1次石油ショックに伴う石油ヤミカルテル事件では、業界サイドに立った自民党が石油販売会社に献金の増額を要求したとして国会で追及されたこともあります(1974年)。
献金する側の企業と政治の癒着は、過去の話ばかりではありません。
研究開発費を使った企業などの法人税を優遇する「租税特別措置」の利用に関し、減税額が大きい業界ほど自民党への政治献金額が多い――。そんな「献金効果」を報じたのは、2021年4月21日の東京新聞です。
それによると、自民党が政権に復帰した2013年度から2019年度までの7年間、減税額が最も大きかったのは自動車などの「輸送用機械器具製造業」で総額は1兆4000億円。これに8700億円の「化学工業」、5300億円の「電気機械器具製造業」が続きました。
一方、自民党の政治献金の受け皿団体「国民政治協会」への献金額は日本自動車工業会や自動車メーカーなどの「輸送用機器」が総額17.3億円で首位。同様に他の業界についても、献金と便益(減税)の相関関係が見られたとしています。
こうした実態を前に、法学研究者や法曹関係者は「政党に何も要求しない巨額の企業献金など存在しない。個別の請託がないだけで、実態は賄賂のようなもの」と、かねてから強く批判しているのです。
図表:企業・団体献金をめぐる動き(フロントラインプレス作成)
もっとも、企業による政治献金そのものは、必ずしも違法ではありません。企業献金が適法かどうかを争った八幡製鉄事件では、1970年の最高裁判決で「合法」との判断が下されています。自民党もこの判決に基づき、「企業献金は合法・合憲」との立場を取ってきました。
毎年約24億円を自民党側に献金している日本経済団体連合会(経団連)の十倉雅和会長も「民主主義を維持していくにはコストがかかる。企業がそれを負担するのは社会貢献。何が問題なのか」(2023年12月の記者会見)と強調。これまでと同様、企業の政治献金には何の問題もないとしています。
しかし、政治とカネをめぐる根本の問題が政治献金にあることは明らかです。このため、政治献金の禁止をめぐる議論は、途切れることなく続いてきたのです。