オホーツク海側で唯一の駅逓施設「上藻別駅逓」(写真:著者撮影)
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昭和に産出金量が日本一となり栄えた「鴻之舞(こうのまい)鉱山」。昭和48年の閉山後は往年の賑わいを失い、オホーツクの原野に還ろうとしている。廃村となった鴻之舞の街で、現在も鉱山の当時の様子や資料を展示し語り継ぐ「上藻別駅逓」を訪ねた。(JBpress編集部)

(道民の人、紀行写真家・ライター)

※本稿は『日本遠国紀行: 消えゆくものを探す旅』(道民の人著、笠間書院)より一部抜粋・再編集したものです。

前編「消えた北の黄金郷「鴻之舞鉱山」、漫画『ゴールデンカムイ』の金資源は夢物語ではなかった」から続く

山林地帯にぽつんと佇むオホーツク唯一の駅逓施設「上藻別駅逓」

 木々に埋もれた施設跡を尻目にさらに沢を下っていくと、やがて道路の西側に木造のレトロな建物が一軒現れた。

 まったくの無人の森林地帯となっていた沢沿いでようやく辿りついたひと気を感じる建物で、看板には「上藻別駅逓」とあった。

 駅逓とはかつて北海道に存在した貨物の輸送や郵便と宿を兼ねる施設で、開拓途上地域が広大であった戦前の北海道で独自に敷かれていた制度である。

 駅逓は道内の開拓地でよく見られた施設であったが、開拓がじゅうぶん進むとやがて順番に廃止され(昭和22年全廃)、やがてほかの施設に転用されるなどして消えて行った。

 現在、鴻之舞(こうのまい)の街の紋別側入口にあたる、上藻別に残るものは大正15年の建物で、外壁は下見板張で、2階窓には装飾的な額縁をつけ、内部は中廊下式で客室などを配しており、北海道の開拓時代によく見られた和洋折衷のモダンでレトロな建物の様式を色濃く残している。

 上藻別駅逓も昭和15年に駅逓としては廃止され、旅館や住居として転用後は老朽化から解体されて消える運命にあった。

 しかし平成16年、「往年の賑わいを今に伝えるただ一つの建造物である、この消えかけた遺産を守ろう」と、鴻之舞の元鉱山関係者5名の有志が立ち上がり、「上藻別駅逓保存会」が結成されたのがきっかけで修繕・保存され、現在ではオホーツク海側で唯一残る駅逓施設として活用されている。