ECを主戦場に攻勢強める
同社はこうした実店舗戦略の見直しと並行して、オンラインでの攻勢を強めている。その布石となったのが、8月に発表した生鮮食料品の当日配送網への統合だ。
これによりプライム会員は、牛乳や野菜といった生鮮品を、他の日用品や家電などと同じカートで注文し、数時間以内に受け取れる「ワンストップショッピング」が可能になった。
食料品という購入頻度の高い接点を自社のECプラットフォームに完全に組み込み、顧客の囲い込みを強化する狙いだ。
10月上旬には、既存の食品PB「Amazon Fresh」と「Happy Belly」を統合した新ブランド「Amazon Grocery(アマゾン・グロサリー)」を立ち上げた。
商品の大半を5ドル(約750円)以下と、低価格に設定し、インフレ下で高まる消費者の節約志向に応える。
ECの強みである巨大な顧客基盤と、高度な配送網を武器に、PB商品をフックとして、米小売最大手ウォルマートなどが牙城を築く巨大な日用品市場のシェア奪取を目指す。
試行錯誤の先に見据える「最適解」
2017年に137億ドル(当時の為替レートで約1兆5000億円)で買収した高質スーパー「ホールフーズ・マーケット」については、現在も米国やカナダ、英国で計500店舗超を運営しており、アマゾンは実店舗事業から完全に撤退するということではない。
すなわち、Fresh事業での試行錯誤を経て、事業ごとの役割を明確化するアプローチに活路を見いだした格好だ。
マスマーケット向けはECに注力し、実店舗はホールフーズが担う高品質な体験の提供へとすみ分ける考えだ。
ジャシーCEOは先の株主総会で、食料品事業について「依然として強気だ」と公言した。
一連の店舗閉鎖は、不採算事業から撤退し、より成長が見込めるオンライン分野へ経営資源を再配分するための、長期的視点に立った経営判断といえる。
今後の課題は、拡大するオンライン事業のサービス品質を維持できるかだ。管理が難しい生鮮品を、全米に広がる物流網の末端まで高い品質を保って届け続けられるかが、持続的成長のカギを握る。
アマゾンは2025年末までに、生鮮品の当日配送サービスを米国の2300以上の都市に拡大する計画で、ウォルマートなど実店舗を軸とする小売大手との競争は新たな局面に入る。
EC市場では圧倒的な存在感を示すアマゾンだが、食料品分野では長年、後塵を拝してきた。
実店舗での試行錯誤を経て、同社はようやく自社の強みを最大限に生かす戦略の「最適解」にたどり着きつつあるのかもしれない。
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