不可解な数十万円の紛失、社協スタッフは認めず

 武田和子さんは、このとき97歳だった。これまで大きな病気もしたことがなく、身の回りのことは、だいたい一人でこなす。このアパートには長年住み続けており、知り合いも多い。世話好きの和子さんを慕う人は、年齢を問わずたくさんいた。もちろん、犯罪者として警察にマークされるようなことは何もしていない。

 それにもかかわらず、なぜ、大勢の警察官が和子さんの自宅前に集結したのか。

 このとき、後藤真由美さんの娘・後藤直子さん(仮名)は、とっさにスマートフォンを取りだした。「あの人たちの顔を撮って」という和子さんの言葉に促され、スマホのカメラを玄関口に向ける。

武田和子さんの自宅前に集まった警察官たち=後藤直子さん(仮名)撮影の動画から

「おばあちゃん(和子さん)は、何かあったときに、証拠となるものを残しておきたかったのだと思います。それで私は最初、玄関ののぞき穴から廊下の様子をスマホで撮影することにしました」

 怯えていた3人は、外から中の様子が何も見えないように、部屋の電気を消した。直子さんは、その真っ暗な中を歩いて玄関に近づき、のぞき窓からスマホのカメラレンズを外に向けた。1人、2人、3人……。数えると、ドアの前には男4人、女2人がたむろして何かを話し合っているように見えた。

 その中に、顔のわかる人物が1人いた。直子さんが「江東区の社会福祉協議会に勤務するAさんという女性です」と振り返る。

 和子さんは2023年ごろから、社協のサービスを利用するようになったという。契約していたのは、高齢者の預金通帳や印鑑を社協が預かり、必要な生活費を社協の職員が口座から引き出して手渡しするサービスだ。また、そのころから社協の職員だけでなく、介護サービスの人も和子さん宅に来るようになった。

「ところが」と直子さんが証言する。

「数十万円のお金がなくなって、トラブルになったのです。でも、社協の人たちはその事実を認めないどころか、調査もしてくれませんでした。これでは、おばあちゃんの持っているお金が全部なくなってしまうと思って、ことし春先、社協が提供する福祉サービスの利用をすべて解除しようとしたんです」

 通帳の預かりは、高齢者の日常生活を支援するサービスとして全国の社協で導入されている。一方、この仕組みを悪用した横領事件が全国の社協で多発。2021年には厚生労働省が「不適切な事務処理が行われている」として、全国の自治体に不正防止のための注意喚起をしたほどだ。

 それでも不正利用は止まず、2024年2月には鹿児島県錦江町の社協職員が270万円を横領したとして逮捕。同年10月には徳島県吉野川市の社協で、利用者の預り金80万円余りを着服したとして職員が懲戒解雇されるケースなども起きている。