日本の「議員数削減」論に突きつける問い

 日本の政治でしばしば掲げられる「議員を減らして身を切る」というスローガンは、議員報酬や政務活動費など「目に見えるコスト」に光を当てる。一方で、歳出の大半は人件費・社会保障・教育・保健福祉といった運営支出だ。

 北欧の自然実験が示すのは、議員を減らすと、行政に対する政治のチェック機能が弱まり、運営支出が膨らみやすいという構図である。議員定数を削減すれば、短期的には「議員報酬×削減人数」というわかりやすい節約額をアピールできる。しかし、中長期では、監視力の低下による「見えにくいコストの増加」が、節約額を上回ってしまう可能性がある。

 加えて、議員数削減は多様な声を反映する機会を狭める副作用もある。合議体の規模縮小は、少数派の代表性や専門委員会の厚み、政策監視の人員配置に直結する。監視の緩みは、単に支出増だけでなく、非効率な支出の温存や行政裁量の過度な拡大にもつながりかねない。

「数を減らす」より「働かせる」へ

 ここから導かれる政策含意は、議員数の一律削減は、財政規律の処方箋にならないということだ。むしろ、(1)委員会・監査機能の強化、(2)議会事務局の調査・立法補佐の拡充、(3)行政データの公開とエビデンス審議、(4)執行部との情報非対称を埋める研修・専門人材の導入といった、議会のモニタリング能力を底上げする改革が、歳出のムダを削る近道になるのではないだろうか。

 日本の自治体でも人口規模ごとに委員会構成や定数の「最低基準」を再点検し、「薄すぎる議会」を避ける視点が必要だ。

もう一度、「因果」で考える

「議員が多い自治体は支出も多い」という相関を見て「だから減らせば節約になる」と結論づけるのは簡単だ。だが、それは相関であって因果ではないかもしれない。

 厳密な因果推論を行えば、逆の結論にたどり着く。議会はコストではなく、行政の支出膨張を抑える「装置」でもある。見せかけの相関に惑わされず、制度の設計で歳出を賢く抑える。そのための議論を、日本でも始めるべき時に来ている。

【参考文献】

・Pettersson-Lidbom, Per. "Does the size of the legislature affect the size of government? Evidence from two natural experiments." Journal of Public Economics 96.3-4 (2012): 269-278.

小泉秀人(こいずみ・ひでと)一橋大学イノベーション研究センター専任講師
公共経済学・ミクロ理論が専門で、近年は運と格差をテーマに研究に取り組む。2011年アメリカ創価大学教養学部卒業、12年米エール大学経済学部修士課程修了、12〜13年イノベーション・フォー・パバティアクション研究員、13〜14年世界銀行短期コンサルタント、20年米ペンシルベニア大学ウォートン校応用学部博士後期課程修了、20年一橋大学イノベーション研究センター特任助教、21〜24年一橋大学イノベーション研究センター特任講師、23〜25年経済産業研究所(RIETI)政策エコノミスト、25年4月から現職。WEBサイト、YouTube「経済学解説チャンネル