自民・維新の連立樹立で、議員定数の削減が急浮上=左は日本維新の会の吉村代表、右は自民党の高市総裁(写真:ロイター/アフロ)
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(小泉秀人:一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

 10月21日、高市早苗氏が首相に就任した。この日本初の女性首相を誕生させたのが、自民党と日本維新の会による連立政権の樹立だ。自民・維新の協議では、維新が掲げる「身を切る改革」の象徴とも言える「議員定数削減」が、連立樹立の「絶対条件」として急浮上した。連立合意の文書にも、衆議院定数を1割削減する法案を年内に成立させることを目指すと盛り込まれた。 

 この要求は、単なる交渉カードというだけでなく、維新が「改革の原点」と位置付けてきた自治体レベルでの議員定数削減実績にも裏付けられており、全国規模に拡張しようという戦略と見られている。 だが、その「身を切る」政策が果たして「ムダ」を減らすことになるのか。

 本稿で紹介する北欧における経済学の実証研究は、実は議員数削減は支出を増やすことにつながることを厳密かつ精緻に実証した。日本で繰り返される「議員を減らせば税金が浮く」という直感と、真っ向から食い違う。この非直感的な結果について詳しく見ていこう。

 Pettersson-Lidbomは、フィンランドとスウェーデンの地方自治体を対象に、議会(議員定数)の規模変化が歳出に与える因果効果を推定した(2012年)。「議員を減らせば支出を削減できる」という直感を覆す結論のカギは、見せかけの相関を排し、因果関係を丁寧に識別した点にある。

 単純にデータを並べると、確かに「議員が多いほど歳出が多い」という正の相関が出る。実際、同論文が相関関係だけを見ると、議員数10%増で歳出が約2%増えるという結果が出る。

 だが、これは因果とは限らない。例えば、歳出の多い自治体ほど政策調整が複雑で、結果として「議会を大きくする必要がある」というような「逆方向の因果(リバース・コーザリティ)」と呼ばれる別の要因が、正の相関を生み出している可能性があるからだ。

 ここで研究は、非連続回帰(RD)デザインという手法を用いる。フィンランドでは人口が一定の閾(しきい)値(2000人、4000人、8000人…)をまたぐと、法律で議席数が段差的に増える。この「強制的な段差」は、自治体の意思とは関係なく議席が増減する。

 すると、たとえば人口1999人と2001人の町は、実態はほぼ同じだが、後者は法律により議席がドンと増える。このほぼ同じ自治体ペアの差分こそ、議席拡大の純粋な因果効果と解釈できるのだ。