公明党の連立離脱に怯える宗教界
例えば、宗教法人に対する寄付(布施)や課税、勧誘活動、政治活動などの問題は、公明党が一定の抑止力になり、議論が抑えられてきた側面がありそうだ。とりわけ、宗教界が気を揉むのは、宗教法人の会計透明化や非課税措置の議論が本格化することである。
宗教法人会計については、役員名簿・財産目録の備え付け、および写しの所轄庁提出が義務付けられている。だが、形骸化している上に、収支計算書は「事業を行わない法人で、年収が8000万円以下」である場合、作成義務が免除されている。つまり、多くの宗教法人では「どんぶり勘定」状態が続いている。
これは、地域の小さな寺院や神社などが高齢の住職や宮司らによって運営されているケースが多く、現実的に収支計算書や貸借対照表などの作成が困難であるからだ。だが、民間企業において財務諸表の作成が厳格に決められているのに比べ、宗教法人の会計は実に不透明であり、是正の議論がいつ始まってもおかしくはない。
また、宗教課税の議論が始まる可能性もある。現行では宗教法人に対する課税については、宗教活動や布施・寄付等は非課税である。具体的には法人税、固定資産税、都市計画税などが免除されている。法人税に関しては、収益事業部分だけが対象になっている。
ところが近年、宗教法人が営利活動に近い収益事業を行いながら優遇を受けているという批判が強まっている。また、京都や鎌倉などの観光地の拝観料も非課税だが、「宗教行為とはいえないのでは」との議論も起きつつある。
課税の対象範囲を拡げすぎると「国家の宗教関与」の批判を招くことになるが、政権与党に公明党が存在するか、否かではプロセスと結果が大きく違ってくるはずだ。
公明党の離脱によって、政教関係は大きく変わった。ただ26年前と異なるのは、公明党を支える創価学会の力が弱まり、政治に対峙できる宗教がなくなってしまっていることである。
鵜飼秀徳(うかい・ひでのり)
作家・正覚寺住職・大正大学招聘教授
1974年、京都市嵯峨の正覚寺に生まれる。新聞記者・雑誌編集者を経て2018年1月に独立。現在、正覚寺住職を務める傍ら、「宗教と社会」をテーマに取材、執筆を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)、『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)、『ニッポン珍供養』(集英社インターナショナル)など多数。大正大学招聘教授、東京農業大学非常勤講師、佛教大学非常勤講師、一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事。公益財団法人日本宗教連盟、公益財団法人全日本仏教会などで有識者委員を務める。