2.深刻化するロシアの燃料危機
本項は米経済誌フォーブス(Forbes)の日本版、フォーブス ジャパン(Forbes JAPAN)の「深刻化するロシアの燃料危機 供給不足で廃業するガソリンスタンドも」(2025年10月7日)を参考にしている。
(1)燃料危機の原因
ロシアの燃料危機は、ウクライナによる石油精製所へのドローン攻撃やロシアが元々ガソリンの備蓄能力が低かったことなど、複数の要因が重なっていると指摘されている。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は9月23日、ウクライナ軍が8月以降、ロシア国内にある38の石油精製所のうち16の施設に攻撃を実施したと報じた。
ロシアで最大規模となる1日34万バレルの生産能力があるロシア西部リャザン州の製油所などが複数回攻撃を受けたほか、南部ボルゴグラード州の製油所では攻撃により稼働が一時停止した。
また、ロシア南部の鉄道網へのドローン攻撃も列車による輸送を妨げるうえ、住民や旅行客が自動車をより多く利用することになり、ガソリンの需給バランスを崩す要因になっているとされる。
さて、ロシアの燃料危機は深刻化しており、政府はもはや危機の原因やその規模を隠し切れなくなっている。
ロシア紙イズベスチヤによると、不当な値上げに対し、連邦独占禁止局は全国のガソリンスタンド事業者に警告を出し始めた。
2025年の年初以降、同国では燃料価格が40~50%上昇し、物価上昇の圧力が国民にのしかかっている。
ガソリン価格の高騰により、同国のガソリンスタンド経営者の多くが廃業の危機に瀕している。
ロシアの有力日刊紙コメルサントは9月24日、ガソリンの深刻な供給障害により、ロシアの占領下にあるウクライナ南部クリミア半島のガソリンスタンドの約半数が営業を停止したと報じた。
ロシアでは9月末までに、石油精製能力の約38%に相当する日量約33万8000トンの処理が停止された。操業停止の約7割はウクライナ軍のドローン攻撃が原因だという。
あるウクライナ軍将校は米誌アトランティックに対し、ロシアの石油施設を意図的に狙っている理由について、同国は「大規模な人的損失を耐え忍ぶことができるからだ」と答えた。
「ロシア人は人命など顧みない。だが、経済的な損失を出せば、苦痛を与えることができる」と述べた。
(2)事態の収拾に奔走するロシア政府
ロシア政府は事態を収拾するため、緊急措置を講じようとしている。
ロシアの前出のコメルサントによると、ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は、中国、韓国、シンガポールからのガソリンの輸入関税を免除し、2016年から禁止されているオクタン価向上剤(エンジンの燃焼効率を上げる添加剤、かつては鉛などを含んでいたため禁止された)を一時的に再導入して国内供給を拡大する計画の概要を発表した。
ロシア当局は、これらの措置とベラルーシからの輸入を増やすことで、月間数十万トンのガソリンと軽油が市場に供給されることを期待している。
ロシアのベラルーシからのガソリン輸入量は、前年比で既に36%増加している。
ノバク副首相は2025年10月1日、記者会見で、国内のガソリンの供給状況は「制御下にある」と強調した。
ロシア英字紙モスクワ・タイムズによると、ロシア財務省は来年から付加価値税(VAT)を20%から22%に引き上げることを提案しており、これにより年間1兆3000億ルーブル(約2兆3500億円)の税収を見込んでいる。
ロシアでは1~7月期の連邦予算赤字が4兆8800億ルーブル(約8兆8400億円)に達し、既に政府の通年の上限を上回っている。
これらの措置は状況を短期的に緩和するかもしれないが、ロシアは、次項で述べるような深刻な構造的問題を抱えている。