「東京ドーム13個分」のメガソーラー事業予定地だった静岡県函南町(写真:山口雅之氏提供)
全国で山林の乱開発を伴って進められているメガソーラー事業。自民党新総裁の高市早苗氏も慎重な姿勢を示すなど、国民的関心事になっている。北海道の釧路湿原での計画をはじめ、各地で地域住民による反対運動が起きているが、実際に事業を止められたケースは少ない。
そうしたなか2024年、静岡県函南町で山林を切り開き、約65ha(東京ドーム約13個分)約10万枚のパネルが敷き詰められるメガソーラー計画が阻止された。反対運動の中心人物は同町在住の山口雅之氏(67歳)だ。元大阪府警警視という経歴を持つ山口氏は全国のメガソーラー反対運動をまとめるべく「全国再エネ問題連絡会」を立ち上げた経緯もある。山口氏が考えるメガソーラー計画との戦い方とは。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
函南メガソーラー計画を阻止…なぜ山口氏は立ち上がったか
インタビュー本編に入る前に、函南メガソーラー計画が中止に至った経緯を簡単に振り返っておこう。
同計画は2017年7月に中部電力子会社トーエネックが決定し、投資予定額は約164億円。太陽光発電施設の設置はブルーキャピタルマネジメントが行い、完成後の2025年10月にトーエネックが事業を始める計画だった。
山口氏は大阪府警で警察官から警視となり、反社勢力の経済事件や猟奇的殺人事件などの難しい現場を指揮した経験がある。2013年、55歳で退職し静岡県函南町に夫婦で移住。長年の夢だった夫婦水入らずの生活を満喫していたが、2019年にメガソーラー計画を聞かされ、期せずして反対運動の中心人物となる。
計画を知ったきっかけは、ある町議会議員候補のマニフェストに記載されていたメガソーラー計画を見たことだ。
同計画は山林を大胆に切り開くことから土砂災害の懸念が拭えず、山口氏は危機感を抱いた。開発エリアは、国交省所管の砂防法が定める「砂防指定地(土砂崩れなどの土砂災害を防止するために砂防設備が必要な土地)」と隣接している。砂防指定地直下には約60人が通う丹那小学校が存在することから「土砂災害が発生すれば、ひとたまりもない」と考えた。
設置予定地だった山林(写真:山口氏提供)
函南町には行政法に詳しい人が少ない。山口氏は地域住民からも「何とかこの計画を止めてほしい」と懇願されたという。
山口氏は計画の全貌を把握すべく、情報開示請求や審査請求をした。当初は個人情報保護という名目の下、黒塗りの文書が渡される一方だったが、あの手この手で県が許可した林地開発許可申請書などの書類を精読すると、行政手続き上の「重大な問題」が存在することを発見した。
山口氏は函南町や静岡県とやりとりを続ける傍ら、全国のメガソーラー反対者とも連携し「全国再エネ問題連絡会」を2021年に立ち上げた。「反メガソーラー」の潮流は全国的なものになり、山口氏は内閣府が開く再エネタスクフォースにも識者として呼ばれることとなる。
2022年12月、事態を重く捉えた静岡県議会が「林地開発許可審査基準を満たしていることが確認できない『審査上の瑕疵(かし)』があると言える」とし、同事業の「林地開発許可」の取消しを求める請願を採決。2023年1月、トーエネックは取締役会議で「函南町の太陽光発電事業からの撤退」を決議し、2024年10月にはブルーキャピタルが林地開発行為廃止届を県に提出。同年11月に県が受理し、函南メガソーラー計画は正式に頓挫した。
それでは、インタビュー本編に入ろう。
──山口さんは函南メガソーラー事業を止めた中心人物です。全国で反対運動が広がる中、実際に計画中止にまで至ったケースは非常に少ないわけですが、山口さんたちの活動が成功した理由は何だったのでしょうか。
山口雅之氏(以下、敬称略):最大の理由は、林地開発許可申請手続きにおける「重大な問題」を見抜けたことだと思います。
山口 雅之(やまぐち まさゆき) 元大阪府警察警視、静岡県函南町在住。「函南町メガソーラーを考える会」共同代表、「全国再エネ問題連絡会」の立ち上げにかかわる。大規模太陽光発電所など再生エネルギー施設の建設計画をめぐり、自然環境や住民生活への影響を無視した開発に異を唱える市民活動をけん引。
全国のメガソーラー反対運動では「森林を破壊するな」といった感情論が目に付きますが、森林を破壊してはいけない理由、例えば土砂災害などの危険リスクが高まり住民の命や暮らしが奪われるリスクなどを立証する証拠を整えて公表するといった取り組みが少し弱いのかなと思います。
