東京2025世界陸上向けた公開練習を前に、選手たちを激励する大会スペシャルアンバサダーの織田裕二さんら(写真:時事通信社)
(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
今回の「東京2025世界陸上」は、日本にとって期待以下の結果で終わった。
司会(「スペシャルアンバサダー」とくそダサい肩書が付いている)の織田裕二は、準決勝や決勝にまで進んだ有力選手たちに、試合前「もっと楽しんで」を頻発していた。
激励のつもりなのだろうが、わたしはこの言葉が気になった。
一昔前なら一も二もなく、「がんばって」と発破をかけるところだった。
だが、その言葉はもう時代遅れのダサい言葉になってしまった。今や、時代の言葉は、「楽しんで」「楽しむ」になったのである。
楽しい、楽しい、超楽しい
早朝から、評判の店に長時間、並んで待つのが楽しい(たかがラーメン一杯のために、ときには車で数時間かけて、県を越えるのも楽しい)。
「孤独のグルメ」の聖地(店)でトンカツを食べては、楽しい。
千葉県いすみ市に東京から移住した四十代の女性がいう。「東京といろいろな音が全然違う。毎日超楽しい」
南野陽子は「(芸能界に入っていろいろあったけど)いまは楽しい」。
「アリナミンV」のCMは、「好きなことやって、人生楽しんで」である。
「杜のすっぽん黒酢」という栄養ドリンクのCMはこう訴える。「人生を思いっきり楽しみたいあなたへ」
草笛光子は、健康器具のCMで「人生を楽しみましょ」と誘う。
あの上目遣いの石破首相までが、だれの入れ知恵か知らないが、「楽しい日本(を目指す)」なんて口走る始末である。
いまでは、スポーツ選手はだれもが「楽しむ」派である。