5キロワットのレーザー兵器を装備し弾丸なしでドローンを撃ち落すことに成功した米国の「ストライカー」戦闘車(米陸軍のサイトより)
2025年9月17日、イスラエル国防省と、イスラエルの軍事会社ラファエルは、レーザー光線でミサイルや無人機を撃ち落とす対空防衛システム「アイアン・ビーム」を開発したと発表した。
イスラエル国防省のアミル・バラム事務次官は「世界で初めてレーザー迎撃システムが運用段階に到達した」と述べた。
(筆者注:世界で初めてのレーザー迎撃システムとされているが、艦船搭載用としては米海軍の「AN/SEQ-3 LaWS」が2014年に実戦運用されているので、車両搭載用としては世界で初めてである。後述する図表1を参照されたい)
イスラエルは、短距離ミサイルに対応する対空防衛システム「アイアン・ドーム」でイエメンなどから飛来するミサイルを迎撃してきた。
ドームの弾薬が1発約5万シェケル(約200万円)と高額なのに対し、レーザーは電気代の5シェケル(約200円)程度で済む。
ラファエルの開発関係者らによると、まず追尾用の弱い光線をミサイルに当てる。
標的に当たって反射してきた光線を瞬時に把握し、その光線を鏡で増幅して鋼鉄を焼き切るほど強力な光線を作った上で、2度目の照射をし、ミサイルを破壊する仕組みである。
レーザーは雨や砂ぼこりの日に使用しにくいという弱点があるため、イスラエルは当面、アイアン・ドームなどと併用して運用する方針である。
イスラエルのカッツ国防相は「レーザー迎撃能力の実戦化の最初の国だ」とし「我が国の防衛体制における歴史的な節目だ」と強調した。
(出典:読売新聞「世界初のレーザー迎撃システム、電気代は1回200円…イスラエル企業『現代戦争のゲーム・チェンジャー』2025年9月18日)
さて、高出力レーザー(HEL:High Energy Laser)兵器システムは、近年、急速な技術発展によって脅威を増している小型~中型サイズのドローンに対して、費用対効果に優れた対処手段として早期装備化の実現が期待されているシステムである。
安価なドローンを撃墜するために、1発210万ドルの防空ミサイル「SM-2」や1発48万ドルの「FIM-92」スティンガーミサイルを戦艦や地上部隊に備えさせるのは、費用対効果が非常に悪い。
これに対しHEL兵器ならば、飛来する脅威に対してタダみたいな金額(2023年4月の米国会計検査院=GAOの評価によると、1発1ドルから10ドル)で対抗することができる。
さらに、HELの主な利点は、電源が供給される限り撃ち続けられ、弾切れがないことである。
HEL兵器システムは、従来の戦闘様相を一変させるゲーム・チェンジャーとして期待されている。
ところで、本稿では我が国のHEL器の研究開発の概要を述べてみたい。
以下、初めにHEL兵器システムの世界の開発動向について述べ、次に我が国のHEL兵器に関する研究について述べ、最後に航空機を守る光波自己防御システムに使用されるレーザー技術について述べる。