国際社会に強烈なメッセージを送った北朝鮮の金正恩総書記(写真:VCG/アフロ)
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(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)

 北朝鮮・平壌から届いた金正恩国務委員長の声を聞きながら、私はしばらく言葉を失った。2025年9月21日、万寿台議事堂で響き渡った彼の演説は、予想を超える次元の内容だったからだ。

 それは、単なる年次行事での発言ではなかった。

 韓国の李在明大統領が国連の舞台で韓国民主主義の復活を宣言するわずか二日前に放ったこの爆弾宣言は、金正恩氏がすでに頭の中で「ポスト非核化時代」を描いていることを赤裸々に示していた。

 彼が描く未来とはこうだ。

 核武装を放棄する代わりに何かの報酬を得る交渉ではなく、核保有国として認められた状態での軍縮交渉であれば応じる。孤立した「ならず者国家」ではなく、グローバル・パワーゲームの堂々たるプレイヤーになる──という未来である。

 果たして、この夢は現実となるのか。正直に言えば、無謀に見えるが、完全に不可能とも言えないのが問題だ。

 なぜ金正恩氏はこのタイミングを選んだのか。答えは単純だ。李在明大統領が国連で、朝鮮半島の平和構築のために、非核化だけではなく、交流や協力の重要性を強調する「ENDイニシアティブ」を発表する前に、自らのゲームルールを先に公開したのだ。囲碁で言うところの“先手”を打った格好である。

 興味深いのは、金正恩氏がトランプ大統領との過去の縁に言及しながらも、「非核化は夢見るな」と釘を刺した点だ。2018年から2019年にかけての北米首脳外交の苦い失敗を振り返り、今回は最初から前提条件を明確にしたのだろう。核保有国としての認知が出発点である、と言っている。

 何より「時間は我々の味方だ」という金正恩氏の一言は印象的だった。急ぐ必要はないという余裕の態度だ。韓国と米国が北朝鮮の条件を受け入れるまで待つという意思表明にも聞こえる。なかなか大胆である。