(英エコノミスト誌 2025年9月20日号)
Pete LinforthによるPixabayからの画像
会計士の目線で見たハイパースケーラーのバランスシート
人工知能(AI)ビジネスの世界では、ビリオン(10億)という単位は非常に2022年的だ。
生成AI「Chat(チャット)GPT」がAIブームに火をつけて3年経った今、トリリオン(1兆)が重要になっている。
クラウド基盤「Azure(アジュール)」にAIのまばゆい裏地を当てた米マイクロソフトの市場時価総額は、先日記録した4兆ドルからそれほど離れていない水準にある。
検索サービスのグーグルをAIで化粧直しした米アルファベットは3兆ドル企業になったばかりだ。
競合クラウドサービスを展開する米アマゾン・ドット・コムも、調子が良い日には、四捨五入すれば3兆ドルだ。
最近ではソーシャルメディアと同じくらいAIにも力を入れているメタは、2兆ドル前後で堅調に推移している。
また、アルファベットやアマゾン、マイクロソフトにAIクラウドの分野で挑むオラクルは先日、1兆ドルの大台を目指してダッシュを始めた。
さらに、「ChatGPT」の生みの親である米オープンAI、そのライバルのアンソロピック、そしてxAI(エックス・エーアイ)が株式の売り出しを計画すれば、多少の波はあるにしても企業価値は増大し、合計が年末までに1兆ドルに達する可能性がある。
収入や支出も13ケタの数字
最近ではAIによる収入や支出も、時価総額と同様に13ケタの数字で表される。
調査会社ガートナーによれば、AIハードウエアとソフトウエアへの支出額の世界合計は昨年、1兆ドルの大台に迫った。2026年にはこの倍の2兆ドルに達しそうだ。
また、株式を上場しているAI大手5社は2024年から2026年までの3年間で、AIデータセンターを中心に計1兆ドルを超える設備投資を行うと予想される。
その一部は、大手5社やその他企業にAI半導体を供給するエヌビディアとブロードコムの懐に入るだろう。
この2社(株式時価総額は計6兆ドル)はこの3年間に、ほぼ1兆ドルの売り上げを計上すると見込まれている。
このようにゼロがたくさん並ぶ数字は、20カ国・地域(G20)の政府の統計官しか扱わないのが普通だ。
ビジネスの世界では、目まいがするような数字だ。
AI大手の財務諸表を精査することがブラックホールをのぞき込むような作業になり得るとなれば、なおのことだ。
企業の長期志向を促進するか否かはともかく、米国企業の決算発表を四半期ごとから半期ごとに変更してはどうかと言ったドナルド・トランプ大統領の先日の提案は、実態をさらに見えにくくするのがオチだろう。
最高レベルの冷静さも最強クラスの懐中電灯も持たないアナリストにはお気の毒だ。