2025年5月に亡くなったムヒカ氏の国葬の様子(写真:ロイター/アフロ)
(山中 俊之:著述家/起業家)
砂埃が舞う舗装されていない道路の先に、その家はあった。ウルグアイの元大統領のホセ・ムヒカ氏の自宅だ。
自宅は平屋建てで、部屋数も決して多くはない。自宅周りにはムヒカ氏自身が耕す農地もある。自宅前には、警備のためのプレハブ小屋はあったものの、塀は低く、誰でも簡単に乗り越えられる。塀の低さは、国民との距離の近さに比例するのではないかと感じた。
ムヒカ元大統領は、質素な家に暮らして、自分で自動車を運転して大統領として通ったこともあった。
ムヒカ氏は13年にも及ぶ政治犯としての刑務所経験を経て、1985年の軍政終了・民政移管を契機に出獄し、政治活動を本格化させた。演説の巧みさなども功を奏して、大統領選挙に当選し、2010年から2015年までウルグアイ大統領を務めた(本年5月に89歳で没)。
その暮らしぶりから、「世界で一番貧しい」大統領として日本でも大きく報道されたことは多くの人々の記憶に残る。
自宅でインタビューを受けるムヒカ氏(写真:AP/アフロ)
ムヒカ元大統領の根本にあるのは、「政治家は庶民と同じ目線で生活しないといけない」という考えである。庶民の生活を向上させるには、庶民の苦労を体感することが不可欠ということであり、言われてみればその通りだと納得させられる。
日本に目を転じると、自民党総裁選挙が行われようとしている。候補者はスーパーや中小企業の工場などを訪問して庶民派をPRしている。しかし、本当に庶民の肌感覚が分かっているだろうか。
何百万、時に何千万円という裏金を手にする議員がいる中で、総裁選候補者も庶民的な感覚が麻痺しているのではないか。自民党総裁選挙の候補者もムヒカ氏の自宅を一度訪れた方が良いと思う。
世界の大統領官邸は豪華絢爛な建物であり、その中で国賓を招いた晩餐会が開かれている。庶民の暮らしからはほど遠い。