優秀な人材の流入まで排除しないか
こうした事態を前に、日本政府もようやく対応に乗り出しました。ことし8月末に明らかになった制度改革案によると、準備する資本金の要件を現行の「500万円以上」から「3000万円以上」へと6倍に引き上げます。常勤雇用の人数は現行の「2人以上」から「1人以上」となりますが、資本金の要件と共に双方を必須事項とします。
さらに、経営者の経歴や学歴も新たな要件として加わります。「3年以上の経営・管理経験」もしくは「経営・管理に関する修士相当以上の学位」を必須要件として設定。在留資格の決定時には原則として、公認会計士や中小企業診断士による新規事業計画の確認も盛り込むことになりました。
また現在は、書類に不備や不審点があった場合にのみ実施している出入国在留管理庁の現地調査も抜本的に見直し、経営管理ビザの取得者が運営する企業の経営実態を的確に把握できるようにする方針です。
出入国在留管理庁はすでに「外国人起業活動促進事業に関する告示の一部改正(案)」を公示。9月24日までの予定でパブリックコメント(一般からの意見公募)を実施しており、順調にいけば、新制度はことし10月にも始まる見込みです。
新制度が動き出すと、「日本に移住するための最も簡易なルート」「抜け穴だらけ。目的に沿わない中国人を何とかすべきだ」といった批判は沈静化するかもしれません。
ただ、この制度は本来、国際社会での高度人材の獲得競争に勝利し、日本の発展を底上げする目的でした。ビザの発給要件が厳しくなると、日本で起業する意欲が失われ、優秀な人材を確保できなくなる懸念があります。
実際、出入国在留管理庁が事前に開いた有識者会議では、「資本金の大幅引き上げは、まじめに経営したいとの意欲を持つ人を排除してしまう恐れがある」といった意見も出されていました。
外国人の利用を制限する発想だけを優先させていると、停滞する日本経済の底上げをどう図るかという肝心の目的が薄らいでいくかもしれません。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
