米空軍の最新型ジェット無人機「YFQ-42A」(8月27日撮影、米空軍のサイトより)
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 まずは、図表1を参照されたい。

 防衛省の外局として防衛装備品の研究開発、調達、補給、管理、国際協力などを担当する防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」への大学からの応募が、今年度は過去最多の123件となり、前年度(44件)の約3倍に達した。

 その急増の第1の要因は、軍事的安全保障研究には協力しないよう呼び掛けていた日本学術会議が、2022年7月に当該研究を事実上、容認する方針に転じたためである。

 その後、同制度に応募する大学は増え続け、2023年度に23件、2024年度44件、2025年には123件と前年度の3倍と急増した。

図表1:応募件数の推移

防衛装備庁の資料を基に筆者作成
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 2025年9月9日、防衛装備庁は、「安全保障技術研究推進制度」の2025年度の採択結果を発表した。

 2025年度は前年度の2倍ほどになる49件を採択した。2年連続で最多を更新した。

 採択した事業のうち20件は代表者の所属機関が大学であり、東北大学や九州大学、北里大学など7つの大学の事業が初めて選ばれた。

 選ばれた大学および研究課題等の詳細は後述する。

 安全保障技術研究推進制度は、2014年6月に策定された「防衛生産・技術基盤戦略」に基づき2015年に創設された防衛装備庁による競争的研究費制度で、防衛省ファンディングとも通称される。

 競争的研究費制度とは、資金配分主体が広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究開発資金を研究者等に配分する制度である。

 他方、同制度を巡っては、国内の科学者の代表機関である「日本学術会議」が2017年、装備開発につなげる明確な目的があるなどとして問題視する声明を出したため、2018年度以降、大学からの応募は毎年10件程度にとどまっていた。

 ところが、同会議は2022年7月、「科学技術を潜在的な転用可能性をもって峻別し、その扱いを一律に判断することは現実的ではない」として、デュアルユースの研究を事実上、容認する方針に転じた。

 日本学術会議が、デュアルユースの研究を容認すると方針転換した背景には、菅義偉内閣が2020年9月、日本学術会議が新会員として推薦した候補者105人のうち、6人を任命しなかったことが挙げられる。

 この日本学術会議会員の任命問題に端を発し、日本学術会議のあり方に関する活発な議論があった。

 その中で2022年7月、日本学術会議の梶田隆章会長は、小林鷹之内閣府特命担当大臣(科学技術政策)への回答書の中で、デュアルユースの研究を事実上容認する見解を公表した。

 同回答書の詳細は後述する。

 ちなみに、新しい日本学術会議法が2025年6月11日、参議院本会議で可決・成立した。

 2026年10月に、日本学術会議は内閣府所轄の「特別の機関」から特殊法人(法律によって直接設置される法人)へ移行する。

 ただ、学術界では安全保障に関わることへの忌避感が根強く、防衛装備庁から研究の「委託」を受ける従来の形式では応募しづらいとの声があった。

 そこで同庁は2025年度から、より応募しやすい制度となるよう、これまでの委託費に加え、補助金(タイプD)を新設するとともに小規模研究課題(タイプA、C)を単年度契約から複数年度契約(最大3年)にするという制度改善を行っている。

 公募におけるタイプの詳細は後述する。

 以下、初めに安全保障技術研究推進制度の概要について述べ、次に「安全保障技術研究推進制度」に対する日本学術会議の対応について述べる。