どの業種で波及が強いのか?
波及効果はすべての業種で一様ではない。研究結果を整理すると、以下のような特徴が見えてくる。
(1)小売やサービス業、飲食、宿泊業などの非貿易部門
飲食店や小売業のように、お客さんが消費者で、海外の安い労働力を武器にした企業と戦わなくてすむ業種は、ライバル企業も一斉にコストが上がって価格転嫁せざるを得ないので、波及効果が顕著。
(2)製造業などの貿易部門
海外の安い労働力を武器にした企業と戦う必要のある製造業は、価格転嫁をしようとすれば顧客企業は海外の会社との取引に移ってしまうため、価格転嫁できずに、中小企業は倒産するか事業を縮小する。そのため、波及効果は限定的になる。
もう一つの経路:中小企業から大企業へ
さらに、こうした賃上げの動きは、企業規模によって異なる影響を及ぼす。
零細企業や中小企業は、大企業に比べて最低賃金引き上げのコストを吸収する力が弱いため、雇用削減や、ひいては廃業に追い込まれるケースが海外の研究でも発見されている。一方、大企業は設備投資などを増やして生産性を高めて、つぶれた中小企業の穴を埋める形でこれら中小企業の従業員を吸収することが観測されている。
ドイツの事例などでは、最低賃金引き上げの波及効果は、主に零細企業がつぶれて生産性の高い(利益を出している)規模の大きい企業への移動で引き起こされているという。
分かりやすい例だと、地元スーパーが廃業して、その代わりに近くにある大手スーパーが市場を独占、稼働時間を増やすなどして事業を拡大し人手を増やすといったところだろうか。ドイツの例では、これら低賃金労働者の通勤時間が増えたという。