図解:最低賃金引き上げ効果の波及経路
例えば、図のようにA、B、Cという仕事があるとする。Aは最低賃金のレベルにあった仕事で、時給1150円、一方BとCはそれぞれ1250円と1350円だったとする。好条件には理由があり、負担が大きい仕事(暑い中外で仕事をする必要があったり、夜勤だったり)の方が賃金が高いとしよう。
ここで、最低賃金が1250円に引き上がることで、仕事Aの時給が1250円になるとする。

するとどうなるか? 仕事Bは負担が少し多めにもかかわらず、最低賃金と同じ賃金であれば、誰も応募してこないし、離職する人も増えるだろう。そのため、仕事Bの賃金も会社は上げざるを得ない(第2段階)。ここでは以下の図のようにCと同じ賃金になるとしよう。

そうすると、今度は仕事Cの賃金も引き上げざるを得ない。このように、最低賃金が仕事Bの労働者にとっての別の仕事の機会(アウトサイドオプション)の目安になり、それが今度はCに波及するという経路が、流動性が非常に高い最低賃金付近の市場においてはある程度有力だろう。
さて、問題はこの波及がどの賃金レベルまで続くかである。
この問いの答えに、Kawaguchi and Mori(2021)とMori and Okudaira(2025)の論文が有用だ。Kawaguchi and Mori(2021)では、およそ15%(150円程度)上の賃金へも波及効果があった。Mori and Okudaira(2025)ではパートの女性労働者に焦点を当て、最低賃金上昇が時給にして「約400円程度」上の水準まで波及することを確認している。
こうした波及効果の度合いは他の諸外国でもブラジルのような正規の仕事ではない仕事が多い国を除いて、だいたい同じような水準だ。
波及効果が400円程度より上の賃金まで波及せずに頭打ちする理由は、文献では主に、どれだけスキルが代替可能かが鍵だと考えている。上の図では、労働者は負担増さえ耐え忍べばA、B、Cどの仕事も選ぶことができた。だからこそ、アウトサイドオプションが効いたのである。
しかし、ある程度のところまで来ると、賃金の差は負担の差ではなく、必要な技術の差になってくる。
例えば、時給2000円の仕事Dは3年かけて取得する国家資格が必要だとしよう。そうすると、このDの仕事についている人はせっかく取った仕事を捨ててまで、キツいCの仕事に就こうとは思わないだろう。そのため会社も、Dの賃金を上げる必要はない。そうするとどこかで頭打ちがくる。