お金は時代によって形を変えてきた(写真:Dyfrain/Shutterstock.com)
金価格が急騰した後も高止まりしている。その背景には、中国をはじめとする国々が金準備を増やしているとの見方がある。確かにグローバル金融危機以降、金準備が増勢に転じており、そのトレンドは現在も続いている。国際政治の対立が国際経済の分断を加速させるなか、無国籍資産と言われる金を有事に備えて保有する動きは、国際通貨体制の行方もその影響を免れ得ないだろう。いま改めて、金と通貨の関係を問い直す時が来ている。
(平山 賢一:麗澤大学経済学部教授/東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)
通貨の進化は「行ったり来たり」
通貨の歴史をふり返ると、それは直線的な進化の物語ではなく、河川のように逆流や分岐・併存、そして統合を繰り返しながら今日に至っていると言ってよいだろう。
古代においては、布や牛、穀物といった生活物資そのものが交換の媒介となり、やがては銀や銅など、保全や携行性に優れた金属が重宝されるようになった。鋳造技術を得た王室や国家では、硬貨を鋳造し、遠隔地との商取引にも応えられる統一的な決済手段を整えた(図1の①から②へ)。
【図1】通貨をめぐる歴史
だが、経済の拡大が進むと、人類は新たな壁に突き当たるのであった。
それは、金属の産出には限界があるという量的制約の壁である。この制約は、交易が活発化するほど貨幣の需要は高まるのに、金や銀の採掘ペースは容易に引き上げられないというものである。
わが国では、奈良時代に銭が使用されるようになったものの、素材不足などの要因がはたらき、平安時代には使用が衰退している。むしろ生産量を増やせる布などの原始貨幣の使用に戻るという現象が生じた。つまり、図1に示したように、必ずしも通貨の仕組みが発展するように、①から②へと一方向に進むわけではなく、②から①へと逆流することもあったのである。
奈良から平安への経験が示すように、通貨は後戻りすることもある。そして、金属貨幣の段階にあっても決して安泰ではなく、やがて金属不足という別の壁が立ちはだかるのである。金属不足を補うために取られた手段が貨幣改鋳であった。
つまり、同じ額面の硬貨でも金属の含有量を減らして発行するのである。やがてこれは、財政難に直面した国家が帳尻合わせの手法として乱用するようになり、貨幣の品位低下と信用の動揺を招いた。結果として、貨幣の品位は下がり、信用が揺らぐことにもつながった。
