問題の根底に米国の国際競争力の衰え

 トランプ氏の「相互関税」発動について、中国外務省の郭嘉昆報道官は4月3日「世界貿易機関(WTO)の規則に違反しており、ルールに基づく多国間貿易体制を損なった。自国の正当な利益を断固として守るため必要な措置を講じる」と述べ、米国に交渉を促した。

 問題の根底には米国の国際競争力の衰えがある。米スタンフォード大学が2022年に中国政府の介入が米中産業競争に与える影響について詳しく調べた結果を発表している。中国の5カ年計画による企業設立件数の増加は米国企業の撤退件数の増加や成長鈍化と相関関係があった。

 中国企業の雇用が1%増加すると対応する米国セクターの雇用は0.1%減少していた。中国の5カ年計画に盛り込まれた産業政策の影響は低技能産業から高技能産業へとシフトしており、最近の5カ年計画では通信技術やクリーンエネルギーが優先されている。

 中国の政府支援は中国企業の競争力強化に大きな役割を果たしており、米国ではそれに対応する産業が相対的に衰退していた。米国で衰退する低技能産業だけでなく、米中が主導権を握ろうとしのぎを削る高技能産業でも同様の傾向が見られた。

 トランプ氏がいくら中国に高関税をかけてもこの流れは変わらない。そればかりか第二次大戦以来の同盟国の信頼を失っている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。