地域の福祉施設などで避難生活を送っている中、ウクライナ軍による食料や医療の援助を受けたという。そして、ロシア側の攻勢が強まり、危険性が高まったためウクライナ軍の保護の下で、ウクライナ側に避難してきたということだ。

 避難民が身を寄せていたのは、ウクライナ北部のロシア国境の街スムイにある施設だった。その施設は、1階にはロシアに占領されたウクライナ領から避難してきた国内避難民が住み、2階にはウクライナに占領されたロシア領からの避難民が住んでいるという奇妙な状況にあった。

テレビで流れているのは旧ソ連時代の映画

 ロシア人避難民たちは、国際赤十字の支援と管理の下で暮らしている。食料や衣類などの基本的なサポートはあるようだ。

「快適な暮らしを与えてもらい、満足している」と話を聞いた避難民は口をそろえた。

 テレビなどによるウクライナ側の情報は彼らに与えられないように制限されていた。施設内では旧ソ連の映画が放送されていて、携帯電話は家族と連絡を取るためなどにのみ使用が認められていた。個人所有はできず共有のスマホを国際赤十字の職員に申請すると貸してもらえるという。

トランプに興じるロシア人避難民。テレビではソ連時代の映画が流れている(筆者撮影)

 筆者が訪問した2025年春、その施設では30人ほどが暮らしていた。

 避難民は「すでに帰国した人がいる。どう帰るのかは分からないが、帰国できるかに疑念は持っていない」と話してくれた。すでに親戚などと連絡を取り帰国して身を寄せる場所は決まっているそうだ。

 一方、クルスクから避難民を救出したウクライナ軍兵士は不安を吐露した。

「やむを得なかったとはいえ、ウクライナに避難したロシア人がどう扱われるのかは分からない。彼らの安全のために、帰国日や帰国ルートは教えられない」

 ウクライナ軍兵士によれば、第三国であるベラルーシを経由して帰国することがすでに国際赤十字によって決定しているという。

 しかし筆者にも、帰国が完了するまで関連する情報は漏らさないように、と念を押してきた。