(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年7月28日付)
ステーブルコイン規制法案に署名したトランプ大統領(7月18日、写真:AP/アフロ)
筆者は7月下旬、大手金融機関JPモルガン・チェースが暗号資産(仮想通貨)を担保とした貸し出しを検討しているとのニュース記事を読み、気が滅入った。
暗号通貨が実体経済でも認められる日がいずれ来ることは誰もが分かっていたにもかかわらず、だ。
銀行が担保として認める可能性のあるデジタル資産の一つであるビットコインは2020年以来、相場のボラティリティー(変動率)が主要株価指数の4倍近くに上っている。
テロ組織の資金調達に使われたこともあるし、筆者自身は、これは単なる投機や犯罪の道具以上のものだと思わせる文献をまだ読んだことがない。
だが、最大級の政治資金提供者が背後にいる時には、そんなことはほとんど問題にならない。
超党派の支持でGENIUS法可決
暗号資産業界の政治活動委員会(PAC)はこの数年間、共和党だけでなく多数の民主党の政治家にも献金を行っており、その総額は数十億ドルに上る。
そしてその取り組みは7月半ば、米ドルに価値を連動させる「ステーブルコイン」について定めた「GENIUS(ジーニアス)法」の議会通過をもって結実した。
ステーブルコイン以外の暗号資産を対象とする法律も年内に制定される見通しだ。
こうした施策は次の金融危機を引き起こすだけでなく、米国における政治的ポピュリズム(大衆迎合主義)と不安定さをさらに激化させると筆者は予想する。
こうした現状を見ていると、2000年のことが思い出されて仕方ない。
店頭デリバティブ(金融派生商品)の支持者らが首都ワシントンに押しかけ、金融の「イノベーション」を世界に献上できるように適切な「規制」をお願いしたいと陳情した時のことだ。
その結果、世界が手にしたのは、お粗末な規制しかなされていないクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の取引件数が7倍に増加し、2008年の世界金融危機でピークを迎えた惨事だった。
そして今、スコット・ベッセント米財務長官は、ステーブルコインの市場が今後数年で10倍に成長して今日の2000億ドル弱から2兆ドルに拡大する、融資の引き受けから米国債市場に至るあらゆるところに組み込まれていくと見込んでいる。