撮影/松田麻樹(以下同)
(岡本ジュン:ライター)
近年、金継ぎは単なる伝統工芸の枠を超え、サステナブルなライフスタイルの象徴として世界中から注目を集めている。なぜこれほどまでに金継ぎが世界で注目されるようになったのだろうか。そして、ビジネスやデザインの分野にまで広がった背景には、どのような要因があったのだろうか。
国や文化、宗教といった境界を越えて、多くの人々の心を動かす金継ぎ。
その魅力を探るべく、美術家であり金継ぎの活動を世界に普及させているナカムラクニオさんに話を聞きながら、世界が注目する“Kintsugi”の奥深い世界を紐解いていく。
今や世界共通語となった「Kintsugi」
日本人であれば、おそらく誰もが「金継ぎ」と聞けば、それが器の修復技法であることを知っているだろう。より正確に言えば、金継ぎとは茶道具などを修復するための日本の伝統工芸である。
しかし近年、この金継ぎが「Kintsugi」として世界に広まり、注目を集めている。
「Kintsugi」は今や世界共通語となり、英語にも定着。さまざまなブランドがこの概念をテーマに商品を展開するなど、国際的なムーブメントとして認識されている。
20年前から金継ぎの流行を見つめてきたナカムラクニオさんは、その背景を次のように語る。
「金継ぎは、もはやKintsugiという世界語になりました。2024年には『おにぎり』や『おもてなし』とともに、『金継ぎ(kintsugi)』がオックスフォード英語辞典に新たに加えられたことで話題になりましたね。これは金継ぎが、英語でもそのまま通じる概念になったことを意味しています」。
荻窪にあるアトリエの仕事机で作業をするナカムラさん
また、多くの世界的なファッションブランドが金継ぎをモチーフにした商品を発表しているという。例えばナイキやプーマなどは、金継ぎから着想を得たスニーカーを販売している。
「こうしたスニーカーは、単なるデザイン要素にとどまらず、哲学として取り入れられている感覚です。ドイツのブランド『トリッペン』も金継ぎシューズを展開していますね。ひび割れに沿って走る繊細な金のラインのデザインは、“わびさび”を象徴し、新しい時代の美を表現しているのです」と語る。