「日本人ファースト」など刺激的なキャッチフレーズを掲げ参院選で躍進した参政党の神谷宗幣代表(7月20日、写真ロイター/アフロ)
日本の参院選後にもすぐ発生しそうな事態が米国で進んでいます。
7月18日、米国大統領のドナルド・トランプ氏は、前日の17日に有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が名誉を棄損する記事を掲載したなどとして、同社の実質的な支配権を持つ「メディア王」ルパート・マードック氏らを相手取り、フロリダ州の連邦地裁に訴えを起こしました。
賠償金額は少なくとも100億ドル=約1兆5000億円を下らないとされ、大げさなことになってきました。
さらに、この騒動に起因して、トランプ氏は自身の支持者の一部を斬り捨てる挙に及んでいます。
こういうことがあるんですね。一過性の「反対~!」で票をかき集めて当選した候補者というのは。
選挙の間だけ支持を集め権利を手中にしたら、後はどのようにでも手のひらを返す。トランプ政権の「イーロン・マスク切り」が端的に示す体質が、一般の支持者にも向けられた形になっています。
同じようなことが、日本でも起きる強い予感を持つのが、私だけの取り越し苦労であればよいのですが・・・。
さて、この約1.5兆円賠償訴訟、そもそもこの記事には何が記されていたのでしょう?
そして記事の何が、そこまでトランプ氏を動転させ、「支持者切り」にまで走らせているのか?
トランプの「エプスタイン疑獄」
ウォール・ストリート・ジャーナルが発信した記事は、この連載でもかつて詳細に検討してきた「エプスタイン疑惑」に関わるスキャンダルです。
「エプスタイン疑惑」とは、20世紀末に成功した実業家ジェフリー・エプスタイン氏(1953-2019)が児童への性的暴行などの容疑で逮捕された、欧米の政財界実力者、王族らへの莫大な寄附とともに売春斡旋などが噂された大スキャンダル。
エプスタイン被告はその後、ニューヨークの矯正施設で死亡。当局は「自殺」と発表するも、他殺を疑う声が現在も上がっています。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は2003年、エプスタイン元被告の50歳を祝う「革表紙の誕生日アルバム」の中に、トランプ氏による「下品な私信」があった、というもの。
同紙によると「女性の胸が描かれ、陰毛の代わりにドナルドの署名が書かれた絵が、タイプライターで打たれた数行の文章を囲む体裁」。
手紙は「ハッピーバースデー。毎日が素晴らしい秘密の一日でありますように」と結ばれていたとのことですが・・・。
トランプ氏側は当然ながら「手紙は偽物」と反発しています。
この問題については、かねて米国大統領選で「MAGA=Make America Great Again(米国を再び偉大に)」をスローガンに集まったトランプ支持者層が「情報公開」を強く求めていました。
彼らは、パワー・エリートによる米連邦政治の独占を「ディープステート(影の政府)が真実を隠蔽し、世界を支配している」と陰謀論のシナリオにまとめ「反エスタブリッシュメント」を力にトランプ選対を支えました。
実のところ日本でも「反与党」「反自民」「反外国人」・・・この種の「アンチ」のアピール、いろいろありますね。同じことが米国で半歩先を行っているわけです。
「MAGA」の人々は、米国大統領選で再びトランプ候補が当選すれば、「ディープステート」の陰謀をすべて暴いてくれると期待し、それがトランプ当選の原動力となっていた。
そして「エプスタイン事件」の「闇の解明」は、まさにその象徴ともいえる公約になっていました。
ところが、トランプ政権発足後、司法省とFBI=連邦捜査局は「顧客リスト(client list)」を「調査」、7月に入って「存在しなかった」と発表します。
トランプ氏自身も「顧客リスト」について、「デマだ。一部の愚かな共和党員が民主党の仕組んだワナにはまった」などと発言、MAGAの一部からは「選挙公約を裏切った」と強く反発する事態に発展。
トランプ氏がエプスタイン元被告と過去に親交があったのは紛れもない事実です。
7月15~16日にかけて行われた世論調査では米国トランプ政権が情報を隠蔽していると見る米世論は実に69%で、7割方の米国民がトランプ側の言い分を全く信用していません。
そんな渦中にWSJが「ドナルドの親密・下品なお手紙」を報じたわけです。
本件で直ちにトランプ政権崩壊とはならないでしょうが、ここにきてトランプ政権は、タコが自分の足を食べるような愚挙に走り始めています。