(英エコノミスト誌 2025年7月12日号)
NVIDIAの時価総額4兆ドル超えを伝えるニュースが流れるニューヨーク証券取引所(7月9日、写真:ロイター/アフロ)
これでつまずくはずがない?
2年前に米エヌビディアが時価総額1兆ドル企業のクラブへの入会を果たした時、多くの投資家が株価に割高感が出始めたと懸念を抱いた。
しかし、この人工知能(AI)向け半導体メーカーの株式をたまたまその時期に購入した投資家は、お金を4倍に増やしたことになる。同社は7月9日、時価総額を4兆ドルに乗せた史上初の企業になったからだ。
VCが嫉妬する上場テック企業のリターン
投資家がここ数年間に巨大テクノロジー企業の上場株式で垂涎のリターンを計上していることに、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)会社は強い嫉妬を覚えている。
エヌビディアばかりではない。クラウドコンピューティング・サービスを展開するコアウィーブは、今年3月に上場してから時価総額を300%以上伸ばしている。
資金が潤沢でAIブームを背景にやる気もみなぎっていることから、多くのVCが今、最も有望なスタートアップ企業の株式をできるだけ長く保有したいと考え、バリュエーション(企業価値評価)が天に届くくらい高く伸びることを期待している。
シリコンバレーでは1兆ドルの価値があると評価される非上場企業が「誕生するか否か」ではなく「いつ誕生するか」という話になっていると語る向きもある。
この目標を目指すことによってVC業界の事業のやり方に変化が出ている。そして、ただでさえ好不調の波が大きい業界がさらにリスキーになっている。
VC業界は2023年というほんの少し前、不振にあえいでいた。
パンデミック期に降って湧いた出資ブームのおかげで2021年にはユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)が344社も誕生した。
2年後には、その数がわずか45社にとどまった。業界をどん底にたたき落としたのは金利の上昇だった。
ブーム下でのユニコーンの評価額は、その名のもとになった架空の生き物と同じくらいはかない幻影と化した。
おかげでシリコンバレーでは、VC会社が資金回収に乗り出せば評価額がさらに低下してしまう、いわゆるゾンビ・ユニコーンがいまだに徘徊している。
生成AIの登場で前回よりも熱狂的なブームに
しかし今、生成AIの登場でシリコンバレーは新たなブームに沸き、前回のブームよりさらに熱狂的な様相を呈し始めている。
米調査会社ピッチブックによれば、今年上半期に米国で投資されたVC資金のうち、ほぼ3分の2はAI関連企業に投じられた。
ユニコーンはデカコーン(企業価値100億ドル超)やヘクトコーン(同1000億ドル超)に取って代わられた。
「Chat(チャット)GPT」を作ったオープンAIは、直近の資金調達で3000億ドルの価値があると評価された。
投資運用会社コアトゥの計算によれば、500億ドル以上の評価を受けた未上場企業の評価額の合計は1兆3000億ドルを超え、2年前の水準の2倍以上になっている。
このように高額な評価が付けられるのは、投資資金がふんだんにあるためでもある。
昨年は米国のVC企業が運用する資産が1兆3000億ドルに迫り、2015年の水準の3倍以上に達していた。
パンデミック時代のブームで余った資金は、すぐにAIスタートアップ企業への投資に振り向けられた。
また中東の政府系ファンド(SWF)などAI投資に熱心な新顔の外国人投資家もVC会社に多額の資金を持ち込んでおり、一部の年金基金や財団の撤退でできた穴を埋めている。
