升田幸三=1968年撮影(写真:共同通信社)
着流し、ひげ、鋭い眼光。鬼才と形容され、その飾らない言動は、盤外にも強烈な印象を与えた。
己の美学を貫いた引退
升田幸三が将棋界を去ったのは1979年だった。順位戦A級から一度も陥落することなく引退した。
順位戦A級は将棋界の最高峰に位置するリーグ戦だ。まさに天才の中の天才たちが集う舞台であり、限られたトップ棋士のみが在籍を許される。名人への挑戦権を賭けた総当たり戦は、一局一局が将棋界の歴史に刻まれる名勝負となる。
升田は「A級で負け越したら引退する」と公言していた。1975年度に4勝5敗で負け越すと、1976年度に本格的な休場期間に入り、1979年に引退を表明した。A級在籍31期の中で、皆勤で負け越したのは1975年度だけである。A級での通算勝率7割2分4厘(139勝53敗1持将棋)は、現役を除く歴代A級棋士の中では今でも最高勝率だ。
結果にも形にもこだわる。最高の舞台で最高の将棋を指す——それができなくなった時、潔く身を引く。升田流の美学だった。

