2.北朝鮮戦車の不思議

 この戦車の写真は、一見、形は近代的な最新式で、各種機能を取り付けたものであるように見える。

 金正恩氏が近代的な戦車には各種機能を取り付けよと言っていることから、その結果、このような形になったのであろう。

(1)戦車正面を鉄板とリベットで変形させ近代式のように見せかけた

 戦車の装甲板は通常、命中弾が突き抜けないように厚い(70センチ前後の1枚)板で作られている。そして、命中弾が当たっても上か横に滑っていくように傾斜が付けられている。

 だが、写真2の新型戦車の前面の装甲は、リベットで鉄板を張り合わせてそれらしき形にしたことが分かる。

写真2 写真1の戦車の前面を拡大したもの

 この戦車を軍事パレード場で遠くから眺めれば、「おっ、近代的な凄い戦車だ」「韓国の『K2』戦車に対抗して造られたか」と思うかもしれない。

 また、2020年の軍事パレードで出現した米国製M1エイブラムス酷似の戦車に、砲塔を防護するために装甲板を付けたとも見える。

 しかし、リベットなどを詳細に見れば、主な狙いは鉄板で形を作って、近代戦車に見せかけただけのものと分かる。

 もしも、敵の戦車から徹甲弾を撃ち込まれれば、中に厚い板があったとしても、貫通する可能性が高い。

 写真2の部分に、12.7ミリ機関銃や36ミリ機関砲弾が撃ち込まれれば、鉄板で作った部分は吹っ飛ぶ。

 また、実際に戦場で使われて対戦車榴弾やドローン攻撃を受けた場合、これらの鉄板が破れて歪んだ映像が映し出されれば、世界の笑いものになることだろう。

(2)どうぞ発見してくださいと主張している戦車構造

 戦車の最上部に発煙筒発射器(赤枠部分)が2つ取り付けられている(写真1)。発煙筒を発射して、煙幕を作り、敵からの視界を遮るものだ。

 通常であれば、戦車の砲塔の脇下の部分に取り付けられる(写真3)。

写真3 北朝鮮2020年以降保有の戦車(発煙筒発射器部分に注目)

 発煙筒発射器が最上部にあると、敵から発見される可能性が高まる。

 現代戦で使用されている戦車には、敵戦車を発見する光学監視装置が付いており、内部のディスプレイに敵戦車が映し出され、その戦車が今まさに射撃を行おうとしているのかどうかまで分かる。

 北朝鮮のこの戦車は、「どうぞ早く発見して、弾丸を撃ち込んでください」と主張しているようなものだ。

(3)戦車の車輪を全て隠す防護用の覆い

 戦車の車輪や履帯を、対戦車ミサイルの攻撃から守るために、それらを覆うゴム製のスカートを取り付ける。

 写真1のオレンジの線と矢印の部分だ。通常の戦車は、車輪の半分くらいまで(オレンジの線)覆う。

 しかし、北朝鮮が公表している戦車の車輪には、すべてを覆うようにセットされている。

 履帯は、走れば上下に揺れる。車輪全体にゴム素材の防護覆(スカート)を付けていれば、そのゴムは壊れてしまう。

 全く現実に合わない装着だ。なぜ、このような装着をしているのか。これは、車輪の形や数で、改造された元の戦車がバレるからであろう。

(4)戦車の砲身を踏みつける総書記

 戦車の弾丸は高速で発射される。

 そのため戦車の砲身は高速発射の圧力に耐えなければならない。戦車の部品の中でも製造することが最も難しく、最新の技術を要するのが砲身である。

 北朝鮮が自国で製造できる能力があるとは考えられない。おそらく、輸入したものだろう。

 日本の「74式」戦車は国産であったが、砲身は英国製であった。

 かつては、日本でも性能の良い砲身を作れず、英国に頼ったのだ。それほど製造が難しく、射撃精度を上げる戦車の生命線が砲身なのである。

 北朝鮮が発信している写真の中には、金正恩氏が砲身や車輪を踏みつけているものがある。

写真4 総書記が砲身や車輪を踏みつけている様子(部分)

 戦車兵からしてみれば、戦車砲は剣であり、装甲は鎧である。剣は、武士にとっては魂であり、命である。

 その砲身を将軍様は踏みつけているのである。これは、戦車兵の命を踏みつけていることと同じである。

「命を懸けて戦い、命を懸けて将軍様を守れ」と言われても、国を守る兵の命や兵器を無造作に踏みつけ、兵器を粗末にする将軍様を、兵たちは守ろうと思うだろうか。