もはや第四類ではない?

 厚生労働省による感染症の分類では、現在SFTSは「第四類」感染症とされています。

 この「第四類」とは「動物への措置を含む消毒等の措置」が必要とされ、「一類~三類感染症以外のもので、主に動物等を介してヒトに感染」するもの。

 つまり「ヒト→ヒト」感染を大きく前提としない伝染病を指定、具体的には、マダニが媒介するリケッチア感染症(ツツガムシ病)、野生のキツネを触ることで感染するエキノコックス症、蚊により媒介されるマラリアや日本脳炎、ほかに狂犬病(イヌ、ネコ、コウモリなどが媒介)や黄熱病(蚊が媒介)も四類に区分されています。

 私が責任を持つ東京大学ゲノムAI生命倫理研究コアのメンバーで、群馬大学大学院医学系研究科数理データ科学講座教授の内田満夫先生(公衆衛生医)も、今回のSFTS「感染経路の複合性、複線性」が、病原体の根絶を阻む大きな要因となりうることを、指摘しておられました。

 具体的に考えてみましょう。

 例えば、「新型コロナ」のときは「ヒト→ヒト」の感染がメインでしたから、ともかくその隔離を徹底、おかげで社会的には様々な影響が出ましたが、対策は功を奏し、最終的にパンデミックの事態は収束していきました。

 翻って、SFTSはどうでしょう?

 野山に棲息するマダニを根絶することができるでしょうか。困難です。

 例えば、野口英世が命がけで病原体の特定と療法の確立に取り組んだ「黄熱病」は、すでにワクチンも確立し(1937年)、この研究で1951年度のノーベル医学生理学賞をマックス・タイラーが受賞しています。

 ところが、ワクチンが開発されてから、すでに90年近い年月が経過していますが、いまだ黄熱病は根絶していない。なぜか? 

 アフリカや南米大陸で「蚊」を絶滅させることは現実的には不可能だからです。

 一過性の2025年日本国際博覧会(大阪万博)ですら、ユスリカの凄まじい繁殖力で悩まされている。

 同じハエ目の昆虫で、SFTSの宿主である蚊が生き延びている以上、黄熱病ウイルスもまた根絶やしにすることは難しい。

 SFTSは2006年頃から中国で症例が見られ、2011年にやはり中国で病原体ウイルスが確認された、比較的「新しい」感染症です。

 だからといって病気自体が新しいわけではない。

 新型コロナウイルスが元来はコウモリの病気であったように、在来種の野生動物に共生するマダニが持つ病原体が、人にも感染するようになったものと考えられています。

 日本では2013年に愛媛県と宮崎県でウイルスのPCRによって症例が確定診断されました。

 国立健康危機管理研究機構によると、 罹患者はいずれも海外渡航歴はなく、国内でダニに咬まれて発症、残念ながらお2人とも直後に亡くなっています。

 ヒトの致死率30%という数字は、大変な高率と言わねばなりません。現時点での症例は数えることができるオーダーですが、決して安易に考えるべき伝染病ではありません。