「近いところで爆発があると地響きで揺れを感じる」
萩原:1日だけ医療を提供するのは簡単です。しかし医療とは継続性のあるものです。私たちは主にナセル病院という場所で医療活動をしていましたが、責任のある医療団体として、どうやって継続的な医療を提供するのかは常に課題でした。
危険が迫り退避したほうがいい状況でも、目の前の患者を置いていけるか。それはその都度、非常に難しい判断になります。私たちは非武装で活動していますし、軍事専門家ではありません。日々集めた情報を精査して、どうするべきか見極めなければなりません。
退避要求がこの場所で出た。イスラエル軍はあの辺りで攻撃を始めている。大量の避難民が移動している。近くの別のエリアでも攻撃があったらしい。だいぶ近づいてきている。そういう中でどこまで粘って、いつ避難を決めるかです。
私たちの居住地から病院までの間で何かあれば、病院に行くべきかどうかも考えなければならなくなります。集めることができた情報の中で、最大限合理的に考えられる対応策を取って活動を継続するのです。
──頻繁にドローンの音、戦闘機の音、そして爆撃音があると書かれています。
萩原:ドローンの音はずっとしていました。それが偵察機なのか爆撃機なのかは分かりません。どちらもあるのだと思います。外に出てそれを確認すれば攻撃の対象になりますから、大変なリスクです。
はるかかなたで動いている戦車の写真を屋上から撮ろうとしたら、翌日にその建物が攻撃されたという話もありますし、多くのジャーナリストの方々も命を落とされています。爆発音も時々あります。

空爆もあれば、戦車からの砲撃もありますが、近いところで爆発があると地響きで揺れを感じます。身の危険を感じるような時は、ひどく疲れていても安眠することは難しいですね。
──パレスチナ人同士でもしばしば口論から真剣な睨み合いになり、武器を手に取りながら口論を続けるという話がありましたね。ガザの中では、極度のストレスにより、相当に険悪な雰囲気になっているのでしょうか?
萩原:戦争前からガザにいたわけではないので以前との比較は難しいですが、現地の人たちに言わせると、いがみ合いは悪化しているそうで、「ここまでひどくはなかった」という言い方をしていました。
ガザはもともと氏族社会です。そういう社会には、独自の紛争解決のメカニズムがあります。そうしたメカニズムはイラクやイエメンに派遣されたときにもありました。このメカニズムが壊れると、暴力に訴えて問題を解決する世界になります。法的な統治がない中で、生活の安全も保障されていないような状況では、緊張が高まりやすいのです。