就任時の期待度は高くなかった清水社長だが…

 ある意味での「逆転劇」を引き起こした最大の功労者は、1月28日に港氏に代わってフジテレビ社長となり、先日の総会で金光氏の後任としてフジHD社長に就任(フジテレビと兼務)した清水賢治氏だ。

フジ・メディア・ホールディングスの新社長に選任された清水賢治氏(写真:共同通信社)

 1月にフジテレビ社長に就任した段階では、清水氏に対する期待度はそれほど高くなかった。

 清水氏はアニメ畑が長い。過去に『ドラゴンボール』や『ちびまる子ちゃん』など、数々の人気アニメのプロデューサーを務めてきた。しかしアニメ部門はフジテレビのメインストリームではない。

 金光氏は編成畑、港氏は制作畑だったことからも分かるように、編成・制作こそフジテレビの保守本流で、この流れをたどると「ドン」である日枝氏に行きつく。逆に言えば日枝氏の流れと意をくまなければトップには上り詰めることはできない。これが今までのフジHDおよびフジテレビだった。

長年フジテレビの経営に関わり、強い影響力を持ち続けた日枝久氏(写真:ロイター/アフロ)

 それが中居氏のトラブルをきっかけにフジテレビの体質が批判されるようになり、その企業文化をつくってきた日枝氏と、それに連なる幹部人材にも批判が集まっていく。その流れの中で清水氏のフジテレビ社長への抜擢だったのだから、「日枝氏からもっとも遠いところにいたからこそ選ばれた」と誰もが思っていた。

 ところがそうではなかった。日がたつにつれ「気骨ある人」との評価が高まっていく。それを決定的にしたのが、3月31日の第三者委員会の調査報告後の記者会見だった。

 この一連のトラブルにおける最初の会見は、1月17日の港氏の会見だった。この時港氏は一人で会見に臨んだが、大批判を受けたのは前述のとおり。それに懲りたのか、それ以降の会見はすべて大人数で対応した。どんな質問に対しても答えることができるのは確かだが、責任の所在を曖昧にしているようにも見えた。

 ところが清水氏は違った。3月31日の会見に1人で臨み、すべての質問に対して丁寧に対応した。これにより清水株は上がった。その半月後の北尾氏の改革私案記者会見の時でも、北尾氏自ら「清水社長はなかなかいいと聞いている」と評価した。

 その後、清水氏はダルトン側の代表と話し合いをもつが、そこでも一歩も引くことはなかった。その毅然とした対応は、むしろ株主の支持を集めた。

モノ言う株主にも毅然とした態度で評価を上げた清水氏(写真:REX/アフロ)

 もう一つ、ダルトンが誤算だったのは、北尾氏をはじめとしたダルトン側候補者が、まったくと言っていいほど支持を得られなかったことだ。

 個人株主を中心に、「日枝氏など旧体制はいなくなったのだからまずは改革案を見てみたい。あまりに急進的なことをされるのはむしろ避けたい」と思う人が多かった。清水社長によれば、ダルトン側の候補者は、誰もが3割未満の支持しか得られなかったという。