何も見つかっていない「メディア事業の立て直し策」

 こうしてフジHDおよびフジテレビは、株主総会という最初の関門はクリアした。しかし問題はこれからだ。肝心のメディア事業立て直しの方策が見つかっていないからだ。

 新役員にはロッテリアやファミリーマートを立て直した澤田貴司氏もいるが、メディアの世界でその手腕が発揮できる保証はない。何より、現段階ではスポンサーが戻る気配が見られない。

 日本経済新聞が6月26日付紙面で報じた社長アンケートによると、広告の出稿再開を検討している企業は1割と、依然低いままだ。清水社長は下期にトラブル前の8割まで戻したいと語っているが、そう簡単なことではなさそうだ。

 広告が戻らなければ、メディア事業の再生は不可能だ。その場合、アクティビストの要求が再び強まることは間違いない。野村氏やダルトンが要求しているのは、フジHDの中で着実に利益を生んでいる不動産部門の売却で、その原資を基に株主還元せよと主張している。それは株主総会後も変わっていない。

 フジHD側は、メディア事業の立て直しには不動産部門の利益が必要だと要求を拒んでいるが、今の状況が続けばはね続けることは余計困難だ。

 付け加えれば、北尾氏の取締役選任を拒否したことも痛手となるかもしれない。というのも北尾氏はダルトン側でありながら、不動産事業を売却したとしても、株主還元ではなくメディア事業のために使うべきと主張していたからだ。この点に関してはむしろフジHD側に立っていた。しかし北尾氏は株主総会で取締役選任を否決されると、「フジテレビに関わっている暇はない」と今後一線を画すという。

 つまり、メディアのための不動産、という考えをする人がダルトン側にいなくなった。この状況で野村氏とダルトンが手を組み、20%近い持ち株比率を背景に不動産事業売却および株主還元を迫った場合、それを断り続けるのは極めて困難だ。

 サッポロビールを傘下に持つサッポロホールディングスは今年不動産部門の売却を決めた。サッポロは恵比寿ガーデンプレイスなど優良不動産を持っているが、これを切り離せとアクティビストから要求され続けてきた。

 サッポロはこれまで「ビールなど飲料と不動産は車の両輪」と断り続けていたが、飲料事業は他の大手3社と水を開けられる一方で、ついにアクティビストの要求をのまざるを得なかった。フジHDも同じような状況になりつつあるように思えてならない。

 そしてさらに厄介なのが、日枝氏が築き上げた企業文化を本当に変えることができるのか、という点だ。5月に清水社長は、日枝氏が編成局長だった時代から続いてきた「楽しくなければテレビじゃない」とのキャッチフレーズからの完全決別を宣言した。

 ところが6月に入り、オンラインカジノで社員1人が逮捕され、男性アナウンサーが書類送検された。これをもってすべてとは言わないが、フジテレビに巣くっている「面白い番組さえつくれば何をやっても許される」というようなモラルの低さはそう簡単に変えることはできないことを体現しているような事件だった。

 スポンサー離れ、アクティビストの要求、そして変わらぬ企業文化──。山積する難問に清水社長はいかに立ち向かい、その結果としてフジHDはどこに行くのか。現段階ではまったく予想ができない。

フジテレビは再生できるのか(東京港区台場のフジテレビ本社、写真:共同通信社)

【関 慎夫 (せき・のりお)】
1960年新潟県生まれ。横浜国立大学工学部情報工学科中退。流通専門誌を経て1988年(株)経営塾入社。2000年から延べ10年にわたり『月刊BOSS』編集長を務める。2016年に(株)経済界に転じ『経済界』編集局長に就任した。担当経験のある業界は電機、自動車、流通、IT業界など。