ドジャースタジアムへのICE進入ノー

 一方、ICEによる無差別的な不法移民摘発、それに反発するラティーノ(主にメキシコ系)による妨害阻止でトランプ氏が命じた州兵、海兵隊出動に沈黙を守ってきたドジャース球団が6月20日、ついに動いた。

 ICEが摘発した不法移民(容疑者)を取り調べる場所にドジャースタジアムの広大な駐車場を指定、職員が進入しようとしたのをドジャース球団は阻止、要請を退けたのだ。

Federal agents are denied access to Dodger Stadium in latest immigration clash | PBS News

 返す刀でドジャースは不法移民に対する「連帯」を示すべく、100万ドル(約1億4000万円)をロサンゼルス市当局に差し出した。

 不当な摘発で生活苦を強いられているラティーノ系市民に対する対策費用に使ってほしいと申し出たのだ。

The Dodgers Owe More to Their Latino Fan Base

 プロスポーツの一団体が連邦政府の施策に口を出したり、反旗を翻すのは日本では考えられないことだが、米国では当たり前。

 このドジャースの「政治行動」にトランプ氏がどう出るのか。今はイランの核施設攻撃で頭がいっぱいのようだが、早晩強硬手段に出るはずだ。

プロサッカーチームは一足早く同情の念

 実は、ドジャースだけが反トランプに出たわけではない。

 トランプ政権の不法移民対策に対し、メジャーリーグサッカー(MLS)のロサンゼルスFC、ナショナル・ウィメンズ・サッカー・リーグ(NWSL)のエンゼル・シティFCはすでに「不法移民が経験している恐れと不確かさへの同情心」を表すステートメントを発表している。

(米サッカーファンの30%はラティーノといわれている)

 話が前後するが、こうした状況でファンの40%以上はラティーノが占めているドジャースが何も行動しないのはおかしいではないか、という声が渦巻いていた。

 特に、ドジャースの機関紙的なロサンゼルス・タイムズは、著名なスポーツ・コラムニスト、ディラン・ヘルナンデス記者*1による「Cowardly Dodgers remain silent as ICE raids terrorize their fans(ICEの襲撃がファンを恐怖に陥れているのに臆病なドジャースは沈黙を守ったまま)」と題する記事を掲載した。

*1=ディラン・ヘルナンデス氏は父親がエルサルバドル出身で母親は日本人。日本語、スペイン語が堪能で、大谷翔平選手に最も信頼されている米スポーツ記者。日本人名は「渡辺修」。

La Vida Voices: Los Angeles Times columnist Dylan Hernandez

 その中で、ヘルナンデス氏はこう指摘していた。

一、ブルックリン・ドジャースの時代には、他チームに先駆けて黒人のジャキー・ロビンソン(通算打率311、本塁打137本)を入団させ、その後、メキシコ人のフェルナンド・バレンズエラ、野茂英雄、朴賛浩といった有色人種選手をスカウトした。

 人種差別を撤廃し、多くの有色人種プレーヤーが大リーグで活躍する道筋を作ったのがドジャースだ。

二、ドジャースがニューヨークのブルックリンからロサンゼルスに移ってきた際に建設されたドジャースタジアムの敷地は、主にラティーノ向けの公営住宅建設予定地だった。

 それに不満を持ち憤ったメキシコ系市民を和らげたのは、バレンズエラ選手の大活躍(サイヤング賞獲得、10年間で128勝)だった。

三、こうしたことからドジャース・ファンの40%はラティーノ系市民が占め、その兄弟姉妹、親類縁者がICEの高圧的な摘発に遭っていることにドジャースが目をつぶっているのは道義的に許されるものではない。

Dylan Hernández: Cowardly Dodgers remain silent as ICE raids terrorize their fans

 また、ドジャースに対する陳情は、リベラル派非営利団体「PICO California」2を中心とした宗教者、人権擁護グループからも出された。

 陳情の趣旨はこうだった。

「65年間、多くの家族に愛されてきた文化的機関であるドジャースが、道義的立場に立ち、この地域に生きている、攻撃を受けやすい家族の生命にインパクトを与える時がやってきた」

「(不法移民の)農業従事者は恐れおののいている」

*2=「PICO California」は、カトリック、主流プロテスタント、エバンジェリカルズ(キリスト教原理主義者)、ユダヤ教、ムスリム、仏教など480宗派、45万世帯、65万人で構成される組織。人権擁護、社会正義確立を目的としている。