参院厚労委で答弁する石破茂首相(写真:共同通信社)
医療費の支払いが高額になった際に自己負担を抑える「高額療養費制度」の政府見直し案再検討が始まっている。厚生労働省は、全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介氏、日本難病・疾病団体協議会代表理事の大黒宏司氏を含む「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を設置し、5月26日に第一回目の会合が開催された。
政府は7月の参院選を経て、秋には方針を再決定する予定だが、果たしてこの制度を必要とする当事者の声は反映されるだろうか。今回は、進行乳がん患者である組織開発コンサルタントの勅使川原真衣さんに聞いた。
負担は応能、しかし給付が減るのはおかしい
――勅使川原さんは、〈能力〉にフォーカスして精力的に執筆活動を行ういっぽうで、進行性乳がん当事者でもあります。昨年末からの高額療養費制度見直し問題について、どのように見ておられましたか。
勅使川原真衣(以下、勅使川原) 私は患者の所得に応じた負担、つまり応能負担は妥当だと考えています。低所得者には軽く、高所得者に重い支払いを求めるという負担能力の序列はありますが、国民に対して公平に負担を分配する方法は、これしかないでしょう。しかし、制度の根幹である最善の治療が受けられ、生活が困窮しないためのセーフティーネットとしては、給付の部分で差が出るのは本末転倒です。
勅使川原真衣さん(写真:稲垣純也)
医療費が高額になる深刻な病気になったり怪我を負ったりすることは、自分で選んだことではありません。まるで「お金があるのだから、自助努力で何とかしろ」というように高所得者の負担を増やし、給付も減らしてしまうことは不平等です。
――当初の政府見直し案では、低所得者の負担もけっして軽いものではなかったことが立教大学経済学部の安藤道人教授の報告でわかっています。
勅使川原 ファインセーブと言いたいところですが、生活や生き死にに関わることなので、ありがたがるよりは「頼むよ……」という気持ちになりますね。
――「所得に応じた負担」といっても、前年の収入で所得区分が決まります。つまり「病気や怪我をする前の私」の負担能力ですよね。
勅使川原 私がステージⅢCの進行がんと診断されたのは38歳の時です。おのみず株式会社を立ち上げて3年目、組織開発コンサルタントの仕事に打ち込んでいた時期だったこともあり、所得はそれなりに高い区分でした。
しかし、診断と同時にシビアな治療が始まれば収入も、体力も気力も限りなくゼロに近くなります。なのに、前年の収入によって決まった負担に応じるとなるとかなり大変なことになりました。
しかも、治療は短期間で終わるとは限りません。まだ子どもは小さいし、まったく途方に暮れましたよ。貯金はありましたが、子どもの将来のために必要だと思うと手を付けるわけにはいかないですから。
がん患者になって増える支出は治療費だけではありませんし、削るわけにはいかない事情も人それぞれにあります。私は都心に居を構えていて、それなりにお金がかかります。かといって節約のために引っ越すとなると通院のことも考えなければならない。抗がん剤治療で体力が落ちている間に長距離の移動は難しいし、転院もしたくない。そうすると、子どもの習い事を止めさせるとか、家族に負担をかけることになる。もはや私の支払い能力に応じた〈負担〉ではなくなってくるわけです。
高額療養費制度を使う人たちは、おそらく重症度が高いわけですから、たとえ治療がうまくいって回復できても心身のダメージは少なくないでしょう。まして多数回該当にあたるような長期にわたる治療を必要とする人がどんな生活になるのか、なぜ推し量ることができないのかと報道を見る度に憤っていました。

