(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年6月2日付)

スイスアルプスの夜明け(xiSergeによるPixabayからの画像)

 米国が国内の製造業を復活させる手段として強大な通貨ドルを切り下げるつもりか否かが盛んに取り沙汰されている。

 そんななか、ドルは世界最強の通貨ではなく、もう何十年も最強の通貨ではなかったことに注目する価値があるだろう。

 その称号を与えられるのはスイスフランだ。そして強大なフランはスイスの競争力を何ら阻害していない。

持続的な強さ誇るフラン、質の高い製品サービスで競争力維持

 世界で最も豊かな主要経済国であるスイスは、強い通貨と強い製造業基盤を併せ持つ。

 過去50年、25年、10年、5年のいずれの期間を取っても、スイスフランは最も上昇率が大きな通貨だった。

 激しく売られていた主要通貨がドルに対するカムバックを果たした過去1年間でさえ、トップに近い位置につけている。

 持続的な強さでは、どんな通貨も歯が立たない。

 それにもかかわらず、スイスは、通貨高は輸出競争力を低下させることによって国の貿易力を損なうという仮説を覆している。

 スイスの輸出は増加しており、スイスの国内総生産(GDP)に占める割合(75%)でも世界の輸出に占める割合(ほぼ2%)でも過去最大に迫る。

 世界的な対話は通貨のバリュエーションに過度に執着するようになったが、これは国の競争上の地位を形作る多くの要因の一つでしかない。

 全盛期のドイツや日本のように、スイスは極めて質の高い製品サービスの評判を築いたおかげで、世界は「スイス製」のラベルのために為替プレミアムを払うことを厭わない。

 違法な手段で得た資産の避難先としての評判が残っているにもかかわらず、スイスは長年、並外れたダイナミズムと幅広い競争力を発揮してきた。

 10年以上にわたり、イノベーションにつぎ込む資源――例えば実際的な大学教育と研究開発などを通じて投じる資源――とこうした投資に対するリターンの両方で、スイスは国連の「最も革新的な経済国」ランキングの首位につけてきた。