(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年5月28日付)

報道陣に公開された北京のロボット工業団地(5がつ16日、写真:ロイター/アフロ)

 中国の最重要産業政策「中国製造2025」がどの程度成功したかを知りたい人にとって、ドイツの自動車大手アウディが中国北部に新設した電気自動車(EV)工場は実に鮮明な事例となる。

 生産ラインは中国企業製の産業用ロボット――これもこの政策の重点分野の一つ――で埋め尽くされており、スタート地点には金属板からドアパネルを打ち出す自動プレス機がある。

 その次に控えているのは中国企業傘下のドイツ企業クーカが作ったロボットだ。全部で800台以上あり、いろいろな部品を溶接して自動車のフレームを作っていく。

 この工場では、別の中国メーカーの手でホイール取り付けの工程も自動化されている。おかげで、シフトに入る作業員の人数よりロボットの台数の方が多い。

 吉林省長春にあるアウディの工場で製造技術部長を務めるトビアス・リーベック氏は「我々は中国でこれほど多くの工程を自動化するつもりはなかったが、中国のサプライヤーの料金がとにかく安かった」と語る。

 今では、労働者1万人当たりのロボットの台数はドイツよりも中国の方が多い。

歴史的な転換点となった中国製造2025

 10の最先端産業を牛耳ることを目的に中国政府が10年前にスタートさせた「中国製造2025」は、国内製造業で用いる「核心基礎部品とカギとなる基礎材料」全体の70%を2025年までに自給することを目標の一つに掲げていた。

 重点分野に選ばれた10の産業は、ロボットのほかに先進的鉄道設備、ハイテク船舶建造、航空・宇宙設備、EV、次世代IT(情報通信)技術など多岐にわたった。

 この計画は中国の製造業のみならず、世界経済にとっても歴史的な転換点となった。

 中国政府と西側諸国との通商関係をギクシャクさせる一因になったうえ、現代の政府による産業政策の考え方を形作ることになった。

 中国の貿易相手国は、市場シェアの目標値を掲げたこの計画を重商主義的だと批判した。

 米国のドナルド・トランプ大統領は政権1期目に、中国との貿易戦争を正当化する口実をこの「中国製造2025」に求め、この計画で利益を得る重点分野を狙い撃ちする形で500億ドルの関税を課した。

 その後を継いだジョー・バイデン前大統領は、半導体やグリーンテクノロジーを中心により積極的な産業政策を追求した。

 また、欧州連合(EU)が特化していた産業――工作機械、自動車、先進的な船舶建造など――を中国が重点分野に掲げたことは、欧州との貿易摩擦の激化に拍車を掛けた。

 この計画が世界第2の経済大国で過剰生産能力を生んだことも批判されている。