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「121」「79000」――これらの数字が何を表すか分かるだろうか。それぞれ「中国の100万人以上の都市数」「日本の100歳以上の高齢者数」である。人口学者のポール・モーランド氏は、出生率、都市化、高齢者の増加といった、人口動態に関する10のテーマから、世界の歴史と現在を解説し、未来の予測を試みている。そこからは、人口増加が必ずしも経済発展につながらないことや、高齢化が紛争解消に役立っていることなど、意外な事実が浮き彫りになる。本連載では、同氏の『人口は未来を語る 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』(ポール・モーランド著/橘明美訳/NHK出版)から内容の一部を抜粋・再編集、人口動態が今後の世界をどう変えていくかという論考を紹介する。

 今回は、世界的な寿命の短縮化とその要因について考える。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年5月17日)※内容は掲載当時のもの

■寿命の階級差

 人の生死は、個人レベルでは今も変わらず運の問題だが、社会的レベルではパターンが認められる。もっとも顕著なのは単純に「時代」と「場所」による違いである。今日の先進国に生まれる人は、2世紀前のどこの国に生まれた人よりも、また今日の世界の最貧国に生まれる人よりも、はるかに長生きできる可能性が高い。

 性別による違いもある。世界全体では女性の寿命は男性より平均5年長いが、その差は場所によってさまざまだ。ロシアでは10年以上の開きがあり、それは一般的に男性のアルコール依存率と自殺率が高いからだとされている。北欧諸国では平均寿命の男女差は3年で、その背景としてはアルコール摂取の男女差が小さいことと、進歩的な価値観によりライフスタイルの男女間の違いが小さくなっていることが挙げられる。

 一方で、価値観が明らかに進歩的ではない国々では寿命の男女差がもっと縮まっているが、それはおそらく、国の資源が少女や女性ではなく少年や男性に投じられているからだろう。

 平均寿命の不平等に関して近年もっとも注目されているのは、男女間や国家間の差ではなく、階級間の差である。