米国との貿易戦争で輸出が武器に

 だが、そのように政治的には物議を醸したものの、この計画について先日まとめられた2本の報告書は、中国は最大の目標――安価な労働力にかつて頼り切っていた製造業を近代化すること――を成し遂げたと論じている。

 報告書の一つは在中国EU商工会議所のもの。

 もう一つは、ワシントンを本拠地とする調査会社ロジウム・グループが米国商工会議所の委託を受けてまとめたものだ。

 産業政策、補助金をはじめとする国家の支援、民間部門の起業家精神、そして巨大な国内市場での熾烈な競争といった要素を独特な形で組み合わせた中国は、国内外の多くの産業で中国製品の市場シェアを急激に高めることができた。

 外国のライバルが持つ技術に追いついたり、それを凌駕したりしたケースもあった。

 中国の産業政策の戦略的目標――諸外国の中国依存を促進しつつ、中国が西側の干渉に抵抗できるようにサプライチェーンの自立を達成すること――が試される場面が5月に訪れた。

 米国との報復合戦で習近平国家主席とトランプ大統領が対峙したのだ。

 習は一歩も退かず、最終的にはトランプが譲歩し、145%に達していた関税率を引き下げた。

 アナリストの多くはこれを見て、米国は恐らく自分たちが中国からの輸入を切に必要としていることを理解し、禁輸措置のリスクは取れないと判断したのだと解釈した。

「中国側が使った武器は輸出だった」

 ランド研究所中国研究センターのアソシエイト・ディレクター代理ジェラルド・ディピッポ氏はこう指摘する。

「輸出を牛耳っていることで(中国は)米国との戦いを引き分けに持ち込むことができたと私は見ている。国家安全保障の観点から言えば、このことは習氏の世界観に非常に大きな影響を与える」

各国政府が中国製造2025のレガシーを検証

 中国が輸出を牛耳っているということは、世界中の政府が中国製造2025のレガシー(遺産)を細かく検証していることを意味する。

 各国政府は、この計画に中国政府はどれほどの資源を投入したのか、使われた手段・手法の類いはほかの国でもまねできるのか理解しようとしている。

 また、中国製造業が高めている競争力の脅威から身を守るために追加的な対策が、例えば保護主義政策などが必要かどうかも見極めたいと思っている。

 中国政府が最先端の半導体から人工知能(AI)、AIに対応した機械、ヒト型ロボットに至る未来のテクノロジーを牛耳るために同じ手法を使おうとしていることを踏まえれば、特にそうだ。

「恐らく米国が最初に認識した競争力の懸念に、世界が気づきつつある」とディピッポ氏は言い、「これからその反動が出てくると思う」と警鐘を鳴らす。

 在中国EU商工会議所のイェンス・エスケルンド会頭は「製造業において中国にかなう国は一つもない」と話し、世界全体の製造業における付加価値の29%は中国によるものだと指摘する。

「したがって、『中国製造2025』の目標が世界をリードする製造業国家としての地位の確立だったとするなら、任務は完了したことになる」

「だが、この計画が何の問題も引き起こさずに成功したわけではないことを理解しておかねばならない」