議会は大統領の体力、知力をチェックせよ

 これまで民主党を支持してきたワシントン・ポストは、5月20日付けの社説でこう主張した。

「バイデン氏の体力、認知機能の低下は、大統領に求められるスーパーマン的知力、明晰さ、賢明さといった要素を著しく欠いていたと言わざるを得ない」

「米議会は、こうした大統領の体力、メンタルの鋭敏さをチェックできるテストを行えるよう、超党派で法整備に乗り出すべきだ」

(同紙が、バイデン氏の問題を取り上げながらも、返す刀でトランプ氏の知力や体力の状態を議会がチェックするよう暗に提唱している、と勘繰る向きもある)

Was Biden too frail for the job? Voters should have been informed. - The Washington Post

 一方、政敵だったトランプ氏は「バイデン氏がかなり進んでいるがんであることがなぜ今頃になって分かったのか」とコメント、遠回しな表現で「隠蔽疑惑」の解明を促している。

 トランプ派の共和党強硬派は、この問題を議会で追及する構えを見せている。

標的は2028年大統領候補たちにも

 当然のことながら、民主党内には衝撃が走っている。民主党を支持してきた草の根層には憤りの声も上がっている。

民主党執行部や実力者たちは、なぜ高齢問題があるだけでなくがん患者を担いだのか。2028年の大統領候補の下馬評に上がっている州知事たちにしてもなぜバイデン氏を支持したのか」

「ファースト・レディのジル夫人は真実を知っているのになぜバイデン氏の再選にあれほど固執したのか」

 火の手は、バイデン再選を支持したビル・クリントン元大統領夫妻やバラク・オバマ元大統領(最後までバイデン氏の再選には難色を示していたが)にも伸びている。

民主党の頭上にのしかかる「バイデン問題」

 ところが、こうした民主党の草の根層の憤りは、民主党にとっては現状打破にはもってこいだ、と見る向きもあるのだ。

 政治専門オンラインの「ポリティコ」(Politico)は、がん診断公表前の5月16日、民主党の現状についてこう分析していた。

「いわゆる『バイデン問題』というものが、2028年の大統領候補選びを巡って民主党の頭上に重くのしかかっている」

「なぜ高齢問題を抱えるバイデン氏の再選を認めたのか。しかも党の幹部はもろ手を挙げて賛成した」

「バイデン再選に頑なに固執したことが党に与えた損害は大きい。そのことを認めようとしない党執行部の体質が2028年の大統領戦略の足を引っ張っている」

「もし民主党が有権者の信頼を回復させたいのであれば、できるだけ早く『バイデン問題』の芽を摘む必要がある」

 ポリティコの主張は、民主党が一日も早くバイデン氏の「呪文」から解き放たれて、しがらみのない新しい大統領候補を選ぶべきだ、というメッセージだった。

 CNNのコメンテーターのデイビッド・アクセルロッド氏(バラク・オバマ大統領候補の選挙参謀)はこう指摘している。

「バイデン氏の高齢問題は2022年に遡る。この問題を巡って、民主党支持者の心情に応えることこそ、民主党にとっての最初のリトマス試験紙だ」

「バイデン側近による力ずくの再選戦術に従った民主党員の中には、2028年の大統領有力候補の下馬評に上がっている人たちもいる」

「彼らが立候補したいのであれば、立候補する前にバイデン氏を支持した責任について釈明しなければならないだろう」

 こうした流れの中で潜在的な大統領候補の中には、バイデン支持派から距離を置こうとする動きが出始めている。

 以下の政治家たちだ。

ピート・ブティジェッジ(前運輸長官)
グレッチェン・ホイットマー(ミシガン州知事)
J・B・プリツカー(イリノイ州知事)
アンディ・ベシア(ケンタッキー州知事)

 彼らは異口同音に「バイデン氏がもっと早く大統領選から下りていれば、他の候補者にも出馬のチャンスがあったはずだ」と言い出している。

 あの時は、バイデン氏を熱烈支援していたのに、だ。

The Biden question hanging over the 2028 field - POLITICO