戦時体制の中で教師になるのぶの運命は

 世界の各地で衝突が起き、なにが正義なのかが見えにくくなっている。国内情勢についてもタモリ(79)が口にした「第2の戦前」という言葉が広まりつつある。

 そんな今、やなせさんが唱えていた「逆転しない正義」は問い直す意義があるだろう。

 やなせさんはこんな言葉を遺した。

「正義はある日、突然逆転する。逆転しない正義とは、献身と愛」

 日中戦争に従軍したやなせさんらしい言葉だ。やなせさんはこの戦争が中国民衆を解放に導く正義の戦いと思い込んでいた。

 ところが戦後、日本軍は悪魔扱いされ、打ちのめされた。一方で憎むべき敵のはずだった米国は大切な友好国に一変した。

 そして1973年、逆転しない正義を信条とするアンパンマンを創作した。飢えた人たちにパンで出来た自分の顔をちぎって食べさせた。献身と愛のヒーローだった。

 朝ドラは偉人伝では決してないから、登場人物とモデルの歩みを揃える必要はない。この朝ドラで最も大きな変更点はのぶが教師を目指しているところである。暢さんには新聞記者の経験しかない。

 のぶは女子師範学校に国費で通っているから、軌道修正はないだろう。卒業は1年後の1938年。この年、国家総動員法が公布される。翌39年には第2次世界大戦が勃発する。

 教え子たちに軍国主義を教え、戦場へ送り出すのであろうのぶも逆転する正義にもがき苦しむはずだ。

 そして嵩と一緒にアンパンマンを生むのではないか。