前期決算で創業以来初の営業赤字に陥ることが確実となったトヨタ自動車。昨年末からの相次ぐ業績下方修正で、「トヨタ・ショック」という言葉があらゆるメディアで使われるようになった。
今回のななめ読みでは、同社株に投資してきた機関投資家や自動車担当アナリストの声を集めた。一般メディアには載らない市場関係者の生の声をお届けする。
新型「プリウス」値下げ観測で懸念増大
「値下げはまずいんじゃないのか?」──。過日、外資系運用会社を訪ねたところ、旧知のファンドマネジャーが筆者の顔を見るなりこう切り出した。
「値下げ」とは、5月にも発売されるトヨタの新型ハイブリッド車「プリウス」のこと。
従来、プリウスは250万円前後のプライスタグが付いていた。だが、ホンダが今年2月に新型ハイブリッド車「インサイト」を189万円のタグで発売。予想を大幅に上回る受注を獲得したことから、トヨタが新プリウスの値段を200万円前後まで一気に50万円近く下げるとの観測が強まっているのだ。
トヨタは従来から他社にヒット車が出ると、競合車種を矢継ぎ早に市場に送り出してきた。ここ数年では、日産自動車の「エルグランド」やホンダの「ストリーム」に対し、ライバル車を投入したことが典型例だ。当初、筆者の目には、今回のインサイトに対する新プリウスの価格値下げも、こうした今まで戦法の延長線にあると映った。
また、4月からハイブリッド車への優遇税制が始まったタイミングでもあり、「値下げ戦略は奏功するのでは」というのが筆者を含めた一般的な見方だろう。
だが、専門家たちの見方は違う。「値下げで数量を捌くことは可能だが、プリウスが赤字商品になってしまう」(外資系証券アナリスト)というのだ。
トヨタを含め、大手各社はクルマ1台当たりの粗利を公表していないが、大まかな利益構造は次のようになっている。高級車の場合、利益率は車両価格の35~40%前後、小型車は20%程度とされる。500万円の高級車ならばメーカーの利益は175万円程度、小型車なら30万円程度といった具合だ。
巷の観測通りに新プリウスが50万程度の値下げとなった場合、「利益がほとんどなくなる計算」(同)だという。「利益度外視の販売戦略を採るタイミングではない」(冒頭のファンドマネジャー)という懸念が着実に増大しつつあるのだ。
2期連続赤字への不安
なぜ市場関係者がトヨタの利益動向に固執するのか。
それは、前期の赤字転落による負のインパクトが甚大だったことのほかに、「今期も赤字になる懸念を払拭できない」(別のアナリスト)という事情がある。
自販連が4月初旬に発表した2008年度の国内新車販売台数は、前年度比11%減少し、3年連続のマイナスを記録した。台数は節目となる500万台を大きく下回り、470万台に落ち込んだ。