サブプライムに手を出すな!
顧客を品定め?ルイ14世像
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パリ中心街の裏通り。18世紀初頭建造のBNPパリバ本店に入ると、高さ7メートルの騎馬像が訪問客を待ち構えていた。品定めをしているかのようなブロンズ像は300年近く前に鋳造され、そのモデルはベルサイユ宮殿を築き、贅(ぜい)の限りを尽くしたルイ14世。BNPパリバの前身時代から、2つの世界大戦や大恐慌など危機に直面しては、産業界のリーダーと銀行家がここで対峙(たいじ)した。浪費が後のフランス革命を誘発したルイ14世とは対照的に、BNPパリバは時には「アクションが遅い」と金融界で揶揄(やゆ)されるほど、極めて慎重に世界戦略を進めてきた。
このため、今回の金融危機でも大きな損失は計上していない。投資銀行部門のディディエ・バルム氏(アジア・太平洋チェアマン)は「偶然ではなく、経営の勝利」と言い切る。3~4年前、ライバル各行がサブプライム関連の証券化商品にのめりこんでいた時、BNPパリバ本店は「米住宅市場をめぐるファンダメンタルズ(基礎的条件)は健全ではない」と判断。ニューヨークの資産運用部門や傘下の米バンクウエストなどに対し、「手を出すな」と厳命したのだという。
ベルサイユ宮殿・鏡の間
しかし、現下の金融危機に関しては、BNPパリバにも確実な見通しがあるわけではない。バルム氏は「嵐の中でも優秀なパイロットは飛行機を巧みに操縦するが、株式市場がこれだけ荒れてくると相場は全く読めない」と率直に認める。それだけに、「デリバティブも貸し出しもすべて顧客のためにある」と指摘し、原点回帰こそ投資銀行業務が生き残る唯一の道だと強調する。
消費者金融部門のルイ・ミッシェル・デュレイ氏は「BNPパリバ独自のCSR(企業の社会的責任)戦略がなければ、米英のコンペティターと同様、相当の損失を出していただろう」と話す。同部門の貸出残高は1000億ユーロを超えるが、「(CSRの一環として)契約をしてくれた顧客を必ずバランスシートに残すため、(業界では常識の)ローン債権の証券化を行っていない」という。「“税金を納め過ぎではないか” と批判も浴びたが、結果的に功を奏した」と、デュレイ氏は胸を張る。
金融+保険=バンカシュランス
1990年代後半の日本の金融危機では、信頼性の低下した銀行から、ブランド力の高い三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)などへ預金が静かにシフトした。それに似た現象が今、欧州で起きている。