ウォール街発の金融危機は大西洋を越え、欧州大陸に襲いかかった。金融大手フォルティスが行き詰まり、ベルギー、ルクセンブルク両政府は部分国有化で乗り切ろうとしたが、あえなく失敗。資金繰り破綻の危機が刻々と迫る中、フランス銀行大手のBNPパリバが2兆円を超えるフォルティスの事業買収に名乗りを上げた。市場から冷徹な宣告を受けて「負け組」が続々と退場する一方、「勝ち組」は千載一遇の好機ととらえ、サブプライム後の覇権を狙う。預金量で欧州最大となるBNPパリバの世界戦略を取材し、米国から金融盟主の座を奪う「欧州復権」の可能性を探った。
10月5日夜、BNPパリバはフォルティスのベルギー、ルクセンブルク両事業の買収を電撃発表。翌6日朝、パリ郊外にある同社の保険部門本社を訪ねると、「欧州ナンバーワン」の歓喜に包まれていた。取材した幹部はだれもが、「歴史的な日にようこそ」「今日から新たな時代が始まる」と興奮を抑え切れない様子だ。
保険部門のエリック・ロンバード最高経営責任者(CEO)も、「大きな買い物をしたよ」と上機嫌で現れた。同氏によると、10日前にベルギー、ルクセンブルク両政府がフォルティスの破綻回避に向け、BNPパリバに救済を打診。それを受け、60人を極秘裏にブリュッセルへ送り込んだ。電光石火で資産査定と買収策をまとめ上げたはずだが、同氏は「お互い旧知の間柄だからね」と余裕の表情。実は数週間前から、BNPパリバはフォルティスの窮状を肌身で感じていたのだ。フォルティスの顧客がベルギーからやって来ては、BNPパリバで預金を下ろすなど、「聞いたこともない驚くべき事件」(幹部)が起きていたという。
ひとたび危機が発生すれば、国境を超えた官民一体が「超法規的措置」さえ辞さない。幾多の戦火の舞台となってきた欧州各国は、危機管理のノウハウをDNAとして受け継いでいるのだろう。
世界同時株安にブレーキが掛からず、市場の暴走をだれも止められない。ただ、金融危機が起こるたびに弱者が食われ、強者がより強くなるのは歴史が教える真理だ。ロンバード氏は「今後、商業銀行やヘッジファンドなどはオフバランスのデリバティブ(金融派生商品)損失を処理しなくてはならず、金融機関の合従連衡は加速せざるを得ない」と断言する。同時に、「規制を逃れるビジネスが横行していた。野放しにしていた市場をオーガナイズし、制御すべきだ」と述べ、アングロサクソン流「自由放任」金融の限界も指摘した。