ダムが新たな中国・インド対立の火種に
中国政府がここに来て重い腰を上げた背景には「史上最大級のインフラ事業が経済の立て直しに寄与する」との判断があったのかもしれない。
中国政府は「下流の水供給に大きな影響を与えることはない」としているが、インド、バングラデシュ両政府は早速懸念を表明している。
ヤルンツァンポ川はチベットを離れるとブラマプトラ川と呼び名が変わり、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州とアッサム州を通り、最終的にはバングラデシュに流れ込んでいる。インドやバングラデシュの周辺住民1億人以上にとって貴重な水の供給源だ。
「21世紀は水の取り合いで戦争が起きる」との警告が出ているが、ヤルンツァンポ川(ブラマプトラ川)は潜在的な紛争地域の1つなのだ。
インド政府はアルナーチャル・プラデーシュ州で大規模な水力発電所の建設も予定しており、このプロジェクトが悪影響を及ぼすことを心配している。
インド政府は川の共同管理を訴えてきたが、上流に位置する中国の立場は圧倒的に強い。
国際河川であるにもかかわらず、中国政府がこれまで周辺諸国に対し、情報提供をほとんどしてこなかったため、インドでは「自国の水の安全保障が脅かされている。中国が川を武器化しようとしている」との怒りの声が上がっていた。
昨年末から中国とインドの間で緊張緩和の動きが出ていたが、このダムが両国の新たな緊張の火種になる可能性は十分にあるだろう。