(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
米大リーグ、レッドソックス傘下の3A(マイナーリーグ)からフリーエージェント(FA)となった上沢直之投手が、ソフトバンクに入団することで基本合意したという。4年総額で推定10億円規模の大型契約とも報じられる。12月26日に入団会見が予定されている。
日本ハムのエースだった上沢投手は昨季オフ、ポスティングシステムで米球界に挑戦したが、未勝利に終わって1年での日本球界復帰となる。日本国内で他球団に移籍できるFA権(国内FA権)は取得していないが、ポスティングシステムでは選手が米球界に移籍した際、元の球団は譲渡金と引き換えにその選手の保有権を失う。
上沢投手の場合、レイズと結んだ契約金は2万5000ドル(当時のレートで約370万円)で、日本ハムは100万円に満たない譲渡金で保有権を手放した。1年後に日本球界に戻ってきた上沢投手がライバル球団のソフトバンクへ移籍することになるため、日本ハムファンを中心に批判の声が渦巻く。
上沢投手からすれば、限られたキャリアの中で高い評価をしてくれるソフトバンクとルールの範囲内で契約に合意したわけだが、ポスティングシステムの“盲点”が浮き彫りになったのは間違いない。
メジャー挑戦の厳しい現実
上沢投手のメジャー挑戦は、当初から多難な前途が予想されていた。同じポスティングシステムでオリックスからドジャースへ移籍した山本由伸投手、DeNAからカブスへ移籍した今永昇太投手が、それぞれ複数年で高年俸という好待遇で海を渡ったのに対し、上沢投手はレイズとマイナー契約を結んでの挑戦だった。
今年1月の記者会見では、米球界でプレー経験もある日本ハムの新庄剛志監督から「マイナーでの生活はとても過酷だ」と伝えられたが、「マイナー契約でもアメリカで勝負させてもらう」と決断を尊重してもらったことを明かしていた。
結果は、レイズから移籍したレッドソックスでメジャーデビューするも、中継ぎで2試合に登板したのみで、その後は右肘痛もあって帰国。古巣でもある日本ハムの施設を使って、来季に向けた調整を続けてきた。そして、今オフにレッドソックス傘下のマイナーからFAとなると、日本球界へわずか1年での復帰を決断した。
残念ながら、今季の成績だけをみれば、メジャーの上沢投手に対する評価は妥当だったことになる。日本球界で優れた成績を残した山本、今永両投手がメジャーでも結果を出したのに対し、日本で通算70勝をマークしていた上沢投手は厳しい現実を突きつけられた格好だ。