「家族に電話」と言って戻らなかった運転手

 どうやって空港を出て、ホテルまで送ってくれるバンに乗り込んだか、ほとんど記憶がない。東京湾に沿って高速道路を横浜方面に走るあいだケリーは半分寝ていたが、「家族に電話をかけるために車を停めます」と運転手から言われて起こされた。

 駐車場を通ってひらけた場所で運転手がバンを停めると、近くに停まっていた車のドアが開いた。ダークスーツを着た6人の男が次々と降りてきて、確実にこちらに向かって歩いてくるのが見えた。彼らはドアを開けて車に乗り込んできたが、ケリーはじっと座ったまま、「どうしましたか?」と訊いた。

 責任者だと思われる1人が日本語で話しはじめ、もう1人が英語で通訳した。「東京地検から来ました」。

「そうですか。それで?」。ケリーは訊いた。「なぜ私の車に?」。

 説明は後回しのようだ。彼らのうちの3人が車の後方に乗り込み、2人がケリーを挟むようにして座った。最後の1人も運転手とともに最前列に乗った。数分前まで広々として快適だった車内は、いまや閉所恐怖症に陥ってしまいそうな空間になっていた。

 ゴーンを乗せた車は東京の北東部、小菅駅近くの拘置所に向かっていた。車が地下の駐車場に入り、ゴーンはそこで車を降りた。ゴーンの荷物は拘置所の職員が降ろした。