8年間も袋小路に迷い込んだ末、ケリーはなんとかゴーンの退任後に報酬を支払う方法を見いだした。それは、べらぼうに安い日産株だ。日産は、ゴーンに1株1円で日産株を購入することを認める。ゴーンが買うときには格安だが、合併に伴うバーストによって日産の株価は大幅に値上がりし、ゴーンは売却時に差額をポケットに入れられるというわけだ。

そのとき後任CEOは…

 ゴーンとケリーがそれぞれ日本に向かっていたそのとき、西川廣人(ゴーンの後任の日産CEO)は在日フランス商工会議所で、日産とルノーのアライアンスに関する講演の準備をしていた。午前中ずっと沈んだ気分だった。検察は、ゴーンが着陸したら連行しに来るだろう。ゴーンが日本に戻ってくるのは9月以来だ。検察はゴーンを逮捕するのだろうか? ただ質問だけして、解放するのだろうか?

 西川は800人の聴衆の前でスツールに座り、自分の順番を待ちながら、ルノーの元社長としてルノーと日産のアライアンス物語を語るルイ・シュヴァイツァーの背中をじっと見つめていた。シュヴァイツァーが話し終えると西川が演台に向かい、「このアライアンスは……」と話しはじめた。

「ルノーと日産のあいだで何百もの人が築き上げてきた、お互いの信頼関係と尊敬によって成功しました」。ゴーンについては言及を避けた。そうすることで、このアライアンスの成功はゴーンによるものではなく、ゴーンがいなくても生き抜いていけるというメッセージだと受け取ってほしかった。

ゴーン氏の逮捕を受け記者会見する西川廣人・日産CEO(当時)。ゴーン氏への権力集中を指摘した(写真:アフロ)

 午後3時41分、ゴーンの飛行機は羽田空港に着陸した。

 ゴーンは、プライベートフライト専用の地上サービスを担当する若い女性に出迎えられた。彼女はいつもどおり到着記録を記入し、ゴーンを入国審査のカウンターに案内した。ゴーンは大股で進み、パスポートを手渡した。